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滋賀県は日本最大の湖である琵琶湖の豊富な水資源を活用した食文化が地域を支えてきました。一方、奈良県は関西の中でも森林被覆率が高いことで有名です。中でも吉野は、日本で初めて植林された造林発祥の地であるといわれており、約500年にわたって持続可能な林業がおこなわれてきました。このふたつの地域の訪問を通じ、自然が育む地域のサステナブルな暮らしを体感してみましょう。
滋賀県長浜市にあるハッピー太郎醸造所では、近江産の米と自家製の麹を使って、発泡感のあるクラフトどぶろく(濁り酒)を作っています。伝統的なベースのどぶろくに革新的なフレーバーを融合させた特徴的なお酒です。長浜地区のミネラル豊かな硬水と米、麹が組み合わさることで、このユニークで美味しい飲み物が生まれます。
ここでは発酵について学ぶワークショップを実施しており、醸造中のどぶろくが泡立つ大釜を覗くことができ、発酵に関わる微生物たちの働きを間近で見ながら、繊細な製造工程を学ぶことができます。ワークショップ終了後の試飲セッションでは、出来たてのクラフトどぶろくを楽しめます。
滋賀の発酵文化を探る旅で外せないのはふなずしという郷土料理です。ふなずしは、湖で獲れたフナを塩漬けにした後、ご飯の中で何ヶ月も発酵させた独特の料理です。この料理は1000年以上にわたり湖の地域で作られ、現代の寿司の祖先とも言われています。冷蔵技術が発明されるよりもずっと前から食料を保存しコミュニティを支えてきた調理方法です。
この珍味の深い味わいを知るためには、ふなずしと地元の酒、七本鎗とのペアリング体験がおすすめです。三種類のふなずしを味わい、それぞれに合った地元の酒がどのように味のバランスを取るのかを学びながら、ふなずしの印象的な味を楽しみましょう。歴史を感じながらも、ふなずしの魅力を存分に味わえること間違いなしです。
町屋は、江戸時代以前の日本の商人や職人が住んでいた伝統的な木造の家屋です。長浜の歴史的な地区に、町屋の文化を体験できる「長浜城下 町屋ホテル」があります。江戸時代(1603〜1868)に建てられた町屋の客室で、当時の雰囲気を感じながらも現代の快適さを楽しむことができます。
観光で一日を過ごした後は、ホテルの蔵を改装した貸し切りサウナでリラックスできます。地元の薬草や茶葉を使った香り高いサウナで、心身ともにリフレッシュしましょう。朝食では、滋賀の豊かな食文化を反映した赤こんにゃくや地元でとれた魚、もちもちの近江米が味わえます。
鍋庄商店は、1869年から長浜の地元住民のために醤油を作り続けている老舗の醸造所です。ここでは、発酵が行われる大きな木樽から漂う旨味の香りに包まれながら、木樽を使った伝統的な醤油作りを学ぶことができます。醤油の作り方は多くの人にとって馴染みがないかもしれませんが、この工房を見学することで、職人が丁寧に作り上げていく醤油の発酵過程が理解できるでしょう。醤油の試飲体験では、うす口醤油や濃い口醤油など、4種類の醤油を比べて味わうことができます。気に入った醤油をお土産として購入するのも楽しみの一つです。
滋賀県の北東部、伊吹山のふもとと湖の豊かな水辺をつなぐ木之本町は、江戸時代に北国街道の宿場町として栄えた歴史ある街です。北陸と京都を結ぶ要衝として旅人や商人が行き交い、現在も古い町並みや寺社が残り、歴史と文化の息遣いを感じられるエリアです。
「BIWAKO BACKROADS」が提供する木之本の街歩きツアーでは、地元のお寺や古くから続く酒蔵、醤油作りの様子を見学し、百年以上にわたって受け継がれてきた技術を知ることができます。
ツアーのハイライトは、地元の「発酵オカン」がつくる発酵食をベースとした食事と地酒のペアリング体験です。地元で採れた新鮮な野菜を使った美味しいランチを作り、地酒を一緒に楽しみながら、発酵料理の魅力を学べます。
※時期の関係で一部、通常プランと異なる体験をさせて頂きました。詳しい内容およびお申込みは以下HPをご確認ください。
近江八幡にある「ほりかふぇ」では、近江特産のお米を使った「飯漬け」という食材保存法を実践する体験ができます。飯漬けは、魚や肉、野菜を近江米で発酵させ、長期保存する技術です。前述のふなずしは、フナをお米で一緒に漬け込んで作りますが、その時にフナと一緒に発酵したご飯が「飯(いい)」と呼ばれます。この「飯」はもともと捨てられてしまっていたものでしたが、近年ではその栄養価の高さなどから注目が集まっています。
ほりかふぇの飯漬け体験では、このエリアの特産品である近江牛や野菜をあらかじめ調理された「飯」米に漬け込む工程を学びます。漬け込まれた肉は柔らかく、味付けもしっかりしていて忘れられない体験となることでしょう。
体験を終えた後は、飯漬けを活用して作られたおいしいランチを楽しみながら、テラスから美しい近江八幡の運河を眺めることができます。
この飯漬けは本来は捨てられてしまっていたものを再利用することによって成り立っており、発酵の伝統とサステナブルな食文化を体現しているといえるでしょう。
MIROKU 奈良は、地域との共生を目指す「THE SHARE HOTELS」のホテルブランドのひとつとして、伝統と現代的デザインを融合させながら建てられた魅力的なホテルです。ホテルのロビーでは、吉野杉の1枚板を使ったテーブルなどがあり、奈良公園で鹿たちがのんびり歩く景色を一望できます。
Photo by Takumi Ota
ホテルの客室は、多様なニーズに応えるべく全7タイプの部屋が用意されています。地下階には、吉野杉を用いた温かみのあるラウンジがあり、ゆったりと過ごすことができます。朝食では、地域食材をふんだんに取り入れた和洋2種類の料理を楽しめます。
和紙は、アートや家庭用品として広く使われている持続可能な素材です。吉野の植和紙工房では、1000年以上の歴史を持つ伝統的な和紙作りの技法を守り続けています。和紙の原料である「楮(こうぞ)」の樹皮を繊維に変え、強い和紙を作り上げる過程を学びながら、実際に和紙を作る体験ができます。吉野の伝統工芸を直接学べる貴重な機会となるでしょう。
吉野の森の木材で建てられた「吉野杉の家」は、建築と文化の融合と地域活性化を目指し、建築家の長谷川豪氏と、Airbnb共同創業者ジョー・ゲビア氏のコラボレーションによって2017年に誕生した施設です。この施設は地元のホストメンバーにより運営されており、宿泊者と地域コミュニティとのつながりの場にもなっています。
また、この施設を巡る体験ツアーでは地元ホストによる案内のもと、吉野中央製材所の見学も行うことができます。ここでは奈良の寺院や家屋に使われる高品質な杉やヒノキが製材されており、醤油や酒の発行を支える杉樽の原料も生産されてきました。
吉野での旅は、森林の恵みが地域のサステナブルな生活や文化を支えていることを感じることができるでしょう。