最終更新
古来より女性による素潜り漁が行われてきた三重県。体ひとつで海に潜り、貝や海藻などを採る職業の女性を海女と呼びます。2000年以上の歴史を有する「海女文化」は、国の重要無形民族文化財および日本遺産に認定されています。
今回の旅は、「海女文化」をテーマにめぐってみましょう。“海女のまち”として知られる鳥羽市相差町で現役の海女さんと触れ合い、美しい伊勢志摩の海を眺め、御座では真珠のアクセサリー作りにも挑戦します。美しい伊勢志摩の海と、そこに息づく海女文化を知る旅に出かけてみませんか?
目次
1日目は、大阪駅から出発。歩いて大阪メトロの梅田駅へ向かい、御堂筋線なかもず行きに乗車。なんば駅で降ります。
爽やかな風をイメージさせる車体デザインが美しい
大阪メトロなんば駅に到着したら、駅から徒歩5分ほどの近鉄電車のホームに向かいます。大阪難波駅から観光特急「しまかぜ」に乗り、鳥羽駅まで110分の電車旅をスタートします。
観光特急「しまかぜ」は、大阪、京都、名古屋と伊勢志摩を結ぶ近鉄の観光特急電車です。単なる移動手段ではなく、観光特急「しまかぜ」に乗ること自体が今回の旅の楽しみのひとつでした。どの座席も窓が大きく、座り心地はもちろん、眺めも最高。高層ビルが建ち並ぶ大阪の市街地を抜け、景色は田畑が広がるのどかな風景、移ろう季節に彩られた山や川へと変わっていきます。
座席バリエーションの豊富さも、観光特急「しまかぜ」を選んだ理由のひとつ。個室なら、周りを気にせずリラックスして過ごせます。座席に加え、カフェ車両で味わえるここだけの限定メニューや車内限定販売のオリジナルグッズも充実。カフェ車両へ向かい、沿線の風景を眺めながらコーヒーとケーキをいただきます。
3号車はカフェ車両になっている。写真は2階部分
グループにおすすめの個室(写真:和風個室3〜4人用)やサロン席も備える
新鮮な伊勢海老を網に載せ、炭火で焼いてくれる
鳥羽駅に着いたら、かわいらしい海女さんが描かれた送迎バスが待っていました。ランチスポットの海女小屋はちまんかまどまで、駅から約25分で到着します。
相差(おうさつ)は、日本一海女さんが多い町。現在は70~80名の海女さんが現役で活躍していますが、最も多い時は200名もの海女さんが働いていました。海女小屋はちまんかまどの海女頭を務める野村禮子さんは、93歳。何と80歳まで海に潜っていたそうです。
食事場所として案内されたのは、海女さんが漁の準備や休憩をする海女小屋を模した空間。飾り気のない部屋の中央にかまどがあり、炭が焚かれていました。実際の海女小屋では、海に潜っていた海女さんの体を温めるため、炭ではなく薪を焚くそうです。テーブルと椅子は、壁に沿って並んでいます。賑やかなレストランとは違って、どこか厳かな空気を感じました。
伊勢海老、アワビ、サザエなどが付いた「まるでセレブコース」(写真は12,000円)
最初に感じた厳かな空気は、陽気な海女さんとの会話で一変。フレンドリーに話しかけてくれる海女さんに、ピンと張り詰めた空気がほぐれていきます。気持ちも和んだところで、ザルに盛られた魚介類が到着。各グループに海女さんが着き、ザルに盛られた干物や貝をひとつずつ説明しながら、網の上に並べて炭火焼きにしていきます。魚介類の種類はコースによってさまざま。伊勢海老の漁期は11月から4月、アワビの漁期は5月から9月で、時期によってコースに組み込まれます。この日はラッキーなことに、伊勢海老もアワビもありました!焼いている間も、海女さんの興味深い話は止まりません。漁に出るのは9時から10時30分。今日も午前中の漁を終えてからここに来てくれたそうです。実際に愛用している道具を手に、潜り方や漁の仕方を解説してくれました。
普段から使っているタンボ(浮き輪が付いた網かご)とカギノミ(貝をはがしたりウニをひっかけたりする道具)
特別な味付けは何もせず、そのまま焼いただけ。塩も醤油も付けていませんが、あまりのおいしさに驚きました。海の恵みだけで、十分に味わい深いものです。伊勢海老やアワビのプリッとした食感もたまりません。食事を終えると、数人の海女さんが加わり音楽スタート!地元で躍られている相差音頭を実演してくれました。かまどを囲んで一緒に踊り、まるで自分も海女さんになったような気分です。
海女の間で伝えられてきた相差音頭の実演。一緒に踊ることもできる
建物の左にあるクロマツは、昇龍の松と呼ばれている。枝に手を当てて願うと願いが叶うと言われている
海女小屋はちまんかまどを後にして、小さな漁師町の風景を楽しみながらのんびり歩くこと約20分。相差海女文化資料館にやってきました。
ここでは、模型などの展示で海女の歴史や風習を紹介しています。まず目を引いたのが、海女のジオラマ。白い磯着に身を包み、海に潜る海女さんの様子を再現しています。今は磯着で潜る海女さんはおらず、ウェットスーツに変わっていますが、磯めがねやカギノミなど現代でも変わらず使われている道具も確認できました。そして、海女さんのお守り、星形の印セーマンと、格子状の印ドーマンに込められた意味も学ぶことができました。セーマンドーマンの印は相差のまちの至る所で目にしましたが、これからは見る目が変わりそうです。
明治期に使われはじめたという磯めがねなど、かつての道具も見ることができる
海女がどのように潜っていたのかが分かる実物大模型を展示
カギノミを使って岩からアワビをはがす疑似体験ができる
相差観光の拠点を兼ねているので、地図や観光パンフレットは無料でもらえます。相差を訪れた際は、必ず立ち寄りたいスポットです。
神明神社の参道入口。石灯籠の間を進み、鳥居をくぐって境内へ向かう
相差海女文化資料館の脇の道を歩いて5分ほど上っていくと、石造りの鳥居が見えてきました。神社の名前は神明神社。その境内に、石神さんと呼ばれて親しまれている石神社があります。
石神さんは、女性の願いをひとつ叶えてくれると言われています。元々は、地元の海女さんが豊漁と安全を祈願していたそうです。近年はパワースポットとしての注目が高まり、日本全国から参拝者が訪れています。願いが叶った人によるお礼参りも、年々増加。この日もたくさんの参拝者とすれ違いました。参拝する際は、まず神明神社の本殿をお参りしてから、石神さんへお参りしましょう。心を込めて、願いを告げます。また再び、願いを叶えてお礼参りに訪れたいものです。
心を込めて、叶えたい願い事を書く。願い事はひとつだけ!
願い事を書いた紙は、左右どちらかの願い箱に入れる
伊勢志摩国立公園にあり、部屋の眺望からもロケーションの雄大さを感じられる
お参りした後は相差海女文化資料館まで戻り、16時39分発のかもめバスに乗車。「松尾駅口」のバス停で降り、松尾駅で近鉄電車に乗り換えます。賢島行きに乗り、26分で終点の賢島駅に到着。宿泊する志摩観光ホテルまでは、賢島駅から出発する無料シャトルバスの利用が便利です。
戦後初の純洋式リゾートホテルとして誕生した志摩観光ホテル。昭和天皇がホテル庭園からの眺めを愛で、G7伊勢志摩サミットの会場として各国首脳をもてなした、伝統と格式のあるホテルです。宿泊棟は、1969年に完成したザ クラシックと、2008年に開業したザ ベイスイートがあります。今夜は、ザ ベイスイートに宿泊します。
ザ ベイスイートの客室は、すべて100㎡と広々。ゆったりとくつろげる
ザ ベイスイートの客室にはすべてバルコニーが備わっています。窓の外に広がる森と海の豊かな景観に感動し、しばらく見とれてしまいました。とても素敵な客室ですが、広いホテルには他にも見どころがたくさんあり、散策せずにはいられません。日本を代表する文豪や画家にまつわるエピソードを訪ねて、館内や庭園を見て回ります。まるで博物館のような、見応えのあるスポットにうっとり。
さらに、食事も魅力的です。敷地内にはフレンチ、和食、鉄板焼きといった4つのレストランがあります。今回のテーマは海女文化ということで、ホテル4階にある和食「浜木綿」で寿司や刺身などを堪能することに決めました。
地の食材が随所に盛り込まれた、和食「浜木綿」での夕食の一例
船の名前は、スペイン語で希望を意味するエスペランサ
翌朝は少し早めですが、9:00にホテルをチェックアウト。賢島エスパーニャクルーズに向かいます。のりばまでは、ホテルから歩いて15分ほどです。
「海女文化」を育んだ鳥羽伊勢志摩の海を肌で感じる、約50分の船旅へいざ出発! スペイン大航海時代のカラック船をモチーフにした遊覧船で英虞湾を進み、出発地点へと戻ってきます。吹き抜ける風や潮の香りを体全体に浴び、360度どこを向いても見えるのは紺碧の海と大小の島。船から見る景色は、地上とはまた違った感動を与えてくれます。
専用の展望デッキには望遠鏡も備えられている
いくつもの島や真珠筏が浮かぶ海を、優雅に進んでいく
大粒で美しい光沢を放つ真珠をあしらった、エレガントなアクセサリー
昼食を兼ねて、賢島駅前にあるイワジン真珠店へ向かいます。船を降りてから歩いて約5分で到着します。
イワジン真珠店の創業は1926年。アコヤ貝から採れるアコヤ真珠など品質の良い真珠を、流行に左右されない上品かつ華やかなアクセサリーに仕立てて販売しています。大粒の真珠はとにかく圧巻。フォーマルな場のふさわしいアクセサリーとして、ぜひ持っておきたいものです。すばらしい品々を観賞しショッピングを楽しみつつ、喫茶室の開店を待ちます。
品質の良い真珠のアクセサリーが並ぶ店内
1981年に、店内の一角をイワジン喫茶室としてオープン。モナコで修業したシェフによる、レベルの高い地中海料理が人気です。
こちらでのお目当ては、イワジン風ブイヤベースランチ。2017年に開催された第2回志摩S★1ぐらんぷりでは、圧倒的票差で優勝に輝いた名物メニューです。そのまま食べるのはもちろん、スープをパンに浸したり、パンにラタトゥイユをのせたり、スープにラタトゥイユを入れてミネストローネ風にしたりと、いろいろな食べ方ができるので最後まで飽きません。あっという間に完食してしまいました。
店舗内に併設された喫茶室。窓越しに見える日本庭園が美しい
ワンプレートにパンやスープをのせた、イワジン風ブイヤベースランチ
養殖筏で、真珠貝網を見学
賢島駅から近鉄電車に乗って鵜方駅へ。御座港行きの三重交通バスに乗り替え、約60分で終点「御座港」バス停に到着します。ここからパール美樹までは歩いて15分ほど。
英虞湾は、真珠王と呼ばれた御木本幸吉が世界で初めて真珠の養殖を成功させた場所。今でもたくさんの真珠筏が浮かんでいます。ここで真珠の養殖が成功した理由はいくつかあります。水温、プランクトンの量、潮の流れなどの条件に加え、海女さんの存在も必要不可欠でした。アコヤ貝の採取など、海女さんの活躍がなければ成功しなかったかもしれません。
パール美樹では、伝統的な真珠養殖について学びながら、実際にその場で取り出した真珠を使ったアクセサリーづくりが体験できます。
受付を済ませたら、真珠養殖場の筏の上に移動。たくさんのアコヤ貝からひとつを選んで真珠を取り出し、艶やかに磨いてからアクセサリーに加工するまでを体験しました。世界にひとつだけの真珠アクセサリーを手に、感動もひとしお。きっと忘れられない思い出となるに違いありません。
真珠の大きさや色、形は、貝を開けてみないと分からない
取り出した真珠に金具を取り付け、アクセサリーに!
1日目は鳥羽市相差町、2日目は賢島や御座港といった志摩エリアを訪れました。複雑な海岸線が生み出す景観と、生命を育む豊かな海。この地に息づく「海女文化」は、これらの気候風土があって初めて生まれたものだということが、今回の旅で実感できました。神秘のロケーションと、それによって生まれた貴重な文化を、ご自身の体と心で感じてください。