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日本一の酒どころとして知られる灘五郷をはじめ、各地に酒どころが点在する兵庫県。今回の旅では、そんな酒どころをめぐりながら日本酒の魅力に迫ります。清酒の完成度を高め、江戸を通じて全国に清酒を広めたといわれる伊丹から、灘五郷、酒米山田錦が誕生した播磨まで、美酒を求めて旅する1泊2日。観て、学んで、飲んで、食べてーー。さまざまな体験を通じて、兵庫県の日本酒文化に触れてみてください。
目次
JR大阪駅からJR宝塚線に乗り、約15分で伊丹駅へ到着。駅前から西へ延びる伊丹酒蔵通りを散策。
2軒の酒蔵をはじめ町家風に設えられた飲食店やショップが並ぶ伊丹酒蔵通り
伊丹老松酒造がある十字路を北へ折れ、最初の角を東へ。ほどなく、左手に古い町家建築が見えてきます。伊丹の町家として最も古く、全国的にも数少ない17世紀の町家のひとつで、国の重要文化財に指定されている旧岡田家住宅・酒蔵です。清酒発祥の地である伊丹の中心地に、江戸時代の1674年に建てられ、1984年まで300年以上もの長きにわたって酒造りが行われていたといいます。
酒造りで栄えた往時の姿を留める江戸時代の町家建築
伊丹老松酒造がある十字路を北へ折れ、最初の角を東へ。ほどなく、左手に古い町家建築が見えてきます。伊丹の町家として最も古く、全国的にも数少ない17世紀の町家のひとつで、国の重要文化財に指定されている旧岡田家住宅・酒蔵です。清酒発祥の地である伊丹の中心地に、江戸時代の1674年に建てられ、1984年まで300年以上もの長きにわたって酒造りが行われていたといいます。
内部は一般公開され、無料で見学できる
せっかくなので、軒下に杉玉が吊るされた入口から建物内へ入って見学。広い土間、太い柱や梁、土壁など往時の面影が色濃く残る空間に身を置くと、蔵人の息づかいが感じられるような気がしてくるのです。江戸時代に栄えた伊丹の酒造りを今に伝える文化財に触れられたことは、とても貴重な体験。酒造りの見学や試飲はできなくとも、十分な価値を実感したのでした。
専門ガイドと灘の酒蔵をめぐる日本酒体験ツアー
清酒発祥の地、伊丹を離れ、JRと阪神を乗り継いで神戸へ。日本屈指の酒どころとして知られる、灘五郷を目指します。灘五郷とは、西宮市の今津郷・西宮郷から、神戸市東灘区の魚崎郷・御影郷、神戸市灘区の西郷まで、5つの郷に25の酒蔵が点在する一大酒造エリア。ここでは、灘の酒蔵をめぐるツアーで日本酒のテイスティングを体験します。
御影郷にある日本最大の蔵元白鶴酒造の「白鶴酒造資料館」では、元酒蔵だった館内を順路に沿って進みながら見学。実際に使われていた古い道具、蔵人の人形、映像などを用いた展示は分かりやすさ抜群です。さらに進んだ先のショップコーナーの一角にはきき酒コーナーがあり、蔵自慢の日本酒を無料で飲み比べ。有料試飲も用意されているので、日本酒好きにはたまりません。
古い道具と人形を使った展示で昔の酒造りを学べる
利き酒コーナーでタイプの異なる数種の酒を飲み比べ
ショップにはお酒からグッズまで多彩なお土産が並ぶ
同じ御影郷の蔵元、菊正宗酒造が手がける「菊正宗酒造記念館」は、国指定重要有形民俗文化財「灘の酒造り用具」を展示している唯一の施設。「生もと造り」と呼ばれる伝統技法を中心に紹介されており、昔ながらの酒造りが学べます。見学の後は、季節ごとの酒の無料試飲や高価格商品の有料試飲でテイスティング。お気に入りが見つかれば、ショップで購入することができ、お土産に最適です。
展示されている古い酒造道具などのほぼすべてが国指定重要有形民俗文化財
季節や日によって替わる、蔵おすすめの酒が無料で試飲できる
定番商品からここでしか買えない限定商品まで品ぞろえ豊富なショップコーナー
隣の魚崎郷にある「浜福鶴吟醸工房」では、実際に酒造りが行われている様子をガラス張りの通路から見学。蔵伝統の「生もと造り」と呼ばれる製法で行われる酒造りを、間近で体感できます。もちろん、見学の後はお楽しみのテイスティング。清冽なしぼりたて生酒を無料で試飲できる「生酒試飲コーナー」や、厳選酒をリーズナブルな価格できき酒できる「きき酒処」で、美酒を堪能しましょう。
酒造りの工程がガラス越しに見学できる。写真は蒸し米に麹菌を繁殖させる麹室
蔵自慢の厳選酒を手頃な価格できき酒できる有料きき酒処
直売コーナーには他では買えない限定品やオリジナル商品が豊富
お部屋は和室にベッドを配したスタイル
灘の酒を五感で楽しんだ後は、今夜の宿泊先がある姫路へ移動です。電車とタクシーを乗り継ぎ2時間弱で、「夢乃井庵 夕やけこやけ」に到着。
田園が広がる播磨平野、豊かな水をたたえた夢前川、播磨富士と呼ばれる明神山など、美しい里山の風景に囲まれたロケーションに、身も心も癒やされます。
18のお部屋は、和の趣を大切にしつつモダンにデザインされた上質な空間。全室温泉露天風呂付きで、庭や風景を眺めながら贅沢な湯浴みが楽しめます。お部屋へ入りひと息ついて、早速プライベートな温泉体験に浸ったのでした。
全室露天風呂付き。時間を気にせず贅沢な湯浴みを楽しめる
そして、お待ちかねの夕食。地元の山海の旬素材を厳選し、料理人が手間ひま惜しまず丁寧に仕上げた料理の数々を目の前にすると、自然に頬が緩みます。さらに、今回選んだプランは、播磨を代表する5種類の銘酒から3種類を選んで味わえるというものです。播磨地方は、酒米の王様と呼ばれる山田錦誕生の地。そんな場所で美酒と美食のマリアージュを体験していることに、特別な感慨がこみあげてきました。
夕食は、播磨の山海の幸をふんだんに盛り込んだ会席料理
播磨の地酒を3種選んで飲み比べ
2日目は、世界遺産姫路城と港町・明石の町歩きへ。
白亜の天守はどの角度から見ても美しく、「八方正面」とも称される
シャトルバスで福崎駅まで送っていただいた運転手さんとお別れの握手を交わし、JR播但線で姫路駅へ。
姫路駅に降り立ち駅前の大通りに出ると、真っ直ぐ延びる通りの先に見える白亜の城。この美しいお城こそ、日本で初めてユネスコ世界文化遺産に登録された文化財のひとつ、国宝の姫路城です。はやる気持ちを抑え、ゆっくりと商店街を歩いて約20分で到着。近くで見ると白の美しさが際立ち、白鷺城という別名をもつことがよく理解できます。
ここまで来ると、はやる気持ちを抑えることなど不可能。三の丸広場を抜けて入城券を買い、天守閣へと急ぎます。ただ、進んでも進んでも坂道と石段の連続。道もクネクネと折れ曲がり、なかなか天守閣に近づけません。なるほど、こうした設計で敵兵が容易に攻め入って来られないようにしていたのですね。歩きやすい服装と靴で来て正解でした。
大天守内部。仕掛けやカラクリ、木造城郭建築の粋が随所に
大天守最上階からの眺望。瓦の漆喰など伝統技法も間近に見られる
ようやく天守閣の入口に到着し、いよいよ内部へ。大天守を中心とした天守群の建物内は土足禁止のため、靴を脱いで歩きます。入口で靴袋をもらえますが、自分で用意しておけばよりスムースです。
大天守内部にも、敵を欺く仕掛けやカラクリなどの見所が満載。歴史やお城が好きな人でなくとも、興味を掻き立てられることでしょう。そして、最上階からの眺望は格別。城郭一帯や姫路の町並みなど素晴らしい景色を眺めながら、しばし城主の気分を味わってみました。
鮨クーポンは、2,000円、3,000円、5,000円の3種
じっくりと時間をかけて世界遺産の名城を堪能。お昼を回りお腹も空いてきたので、魚自慢の港町・明石へ移動して海鮮を味わいましょう。姫路から明石までは、JRの新快速で20分強の道のりです。
明石に到着したら、まずは迷わず鮨ランチ。明石の海は国内屈指の好漁場として知られ、年間を通じて約100種類もの魚が水揚げされます。新鮮で上質な魚が身近な存在の明石の町では、古くから数多くの鮨店があり、職人が技を磨き高め合ってきました。
鮨クーポンを使って食べられる対象メニューの一例
そんな明石の鮨を楽しむには、明石観光協会発行の「明石の鮨クーポン『技の逸品』」を利用しない手はありません。明石駅周辺10店舗の加盟店の対象メニューを、気軽に味わえるのですから。観光案内所(あかし案内所)やWEBサイトでクーポンを入手し、いざお店へ。最上の素材を最上の技で仕上げたお店自慢の鮨は、見た目からもネタの新鮮さが伝わってきます。口へ運べば、言わずもがなの美味しさです。せっかくなので、お酒もオーダー。一緒に味わいながら、幸せを噛みしめたのでした。
年末の魚の棚商店街は大漁旗が飾られ多くの買い物客で賑わう
蒲鉾や竹輪、天ぷらなどの練り製品も魚の棚商店街の名物
食後は、約400年前の明石城築城とともに作られたと伝わる魚の棚商店街を散策。約350mのアーケードには、昼網であがった新鮮な魚介類、練り製品、海産加工品を扱うお店や、明石焼をはじめとした飲食店など約100店舗が軒を連ねています。明石ならではの品々が並ぶ店先の様子を眺めているだけでも旅情満点ですが、買い物や食べ歩きをせずにはいられません。初めて目にするものも多く、お店の人にいろいろ尋ねてしまいます。でも、魚の棚の人たちは皆、気さくで親切。美味しいものを食べたり買ったりしながら会話を重ねているうちに、このまちの一員として迎えてもらえたような温かさを感じました。
JR明石駅のホームからも見える、立派な石垣と三重櫓の風景
鮨と食べ歩きで明石の食を存分に体験し、活気あふれる魚の棚商店街を後に。腹ごなしに明石公園を散策して、旅を締めくくりましょう。
明石駅のすぐ北側に広がる明石公園は、明石城跡の広大な敷地にさまざまな運動施設や広場がある市民憩いの場。緑豊かな園内を歩いていると、子どもたちや家族連れが楽しそうに遊ぶ微笑ましい光景を、そこかしこで見かけます。
国指定重要文化財の櫓は期間限定で内部が一般公開される
本丸跡にある展望デッキからの眺望。遠くに明石海峡大橋が見える
さらに進んで、立派な石垣に囲まれた明石城本丸跡へ。明石城は、江戸時代初めの1619年に築城されて以来、400年以上の時を重ねてきた歴史あるお城で、日本100名城のひとつに名を連ねる名城です。天守こそ存在しませんが、南側の石垣の両端には2基の三重櫓が現存し、築城当時の姿を留めています。全国に12基しかない現存三重櫓のうちの2基で、国の重要文化財に指定されている貴重な城郭遺構。3~5月と9~11月の土日祝限定で、内部が一般公開されています。櫓の内部を見学するのは初めての経験でしたが、木造建築の粋や工夫が随所に見られ、歴史ロマンを感じることができました。
日本酒をテーマにめぐった、兵庫県の旅。行く先々で美味しい酒と食を味わう体験を通じて、さまざまな新しい発見がありました。なかでも印象的だったのは、土地によって酒も食も異なり、それらが良い関係で繋がっていること。美味しいお酒と食が織り成す、土地のストーリーとでもいうのでしょうか。美味しい酒と食を求めて、もっと色々な土地を旅してみたくなりました。