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ユネスコ無形文化遺産に登録されたことで世界的に注目を集める「和食」は、日本の伝統的な食文化。その和食に欠かせないのが、味噌や醤油、酒といった発酵食品です。発酵のルーツをたどってみると、その多くは奈良に都が置かれていた奈良時代(710年頃〜794年)にあるといわれています。
今回のモデルコースでは、そんな歴史の舞台となった古都の文化が今なお色濃く残る、奈良県の発酵にまつわるスポットをご紹介。酒蔵が手がける複合施設や、醤油蔵をリノベーションしたホテル、醤油蔵見学&醤油づくりの体験プランなどを通して、「発酵文化」にふれる旅にでかけましょう。
目次
旅の始まりはJR大阪駅。JR大阪環状線に乗って鶴橋駅へ。鶴橋駅で近鉄奈良線に乗り換えたら、奈良駅までは快速急行で約33分。ここから奈良交通バスに乗って春日大社を目指します。
近鉄奈良駅から春日大社本殿までは徒歩25分ほどなので、散策しながらのんびりと向かいたい人は歩くのもおすすめです。
768年に現在の場所に造営された「春日大社」。1998年には「古都奈良の文化財」としてユネスコ世界文化遺産に登録されています。境内に入ると、鮮やかな朱塗りの社殿に目を奪われます。
春日大社回廊の西側に位置する「酒殿(さかどの)」は、859年に造営。日本最古の酒醸造の建物であり、国の重要文化財に指定されています。毎年3月13日に行われる春日祭にお供えする御神酒を、千年以上にわたって造り続けている現役の酒蔵でもあります。
ここに祀られている酒神、酒弥豆男神(さかみずおのかみ)と酒弥豆売神(さかみずめのかみ)にお参りし、発酵文化をめぐる旅をスタートします!
また、清酒発祥の地と言われる奈良では、奈良県酒造組合加盟の27 の酒蔵があり、奈良の豊かな自然環境の恩恵を受けながら、それぞれの蔵元が独自の特徴を持ち、創意工夫や杜氏の伝統技術により様々な清酒が今のなお製造されており、近畿経済産業局から関西を代表する12ブランドの一つとしても選定されています。
近鉄奈良駅の近くまで徒歩10分ほど歩いて戻り、奈良漬の老舗店「今西本店」へ。
奈良漬とは、その名の通り奈良発祥の漬物で、野菜を塩漬けにしてから酒粕に漬け込んだもの。奈良の発酵食品の代表格です。
今西本店の奈良漬は、瓜は4年、胡瓜は9年など、素材によって3年から20年以上もの熟成期間を経て製造されているというから驚きます。何度も漬け替えを繰り返し、手間暇をかけて作られる奈良漬は、時と技が紡ぎだす深い色と香り、味わいが特徴。発酵をめぐる旅にぴったりのお土産です。
清酒とのかかわりが深いこの地だけに、副産物である酒粕を使って発酵させるこの漬物が生まれたのでしょう。地域に根付く技法を使った食文化の広がりを感じます。
近鉄奈良駅から奈良線で大和西大寺駅へ、そこから近鉄橿原線に乗り換えて田原本駅へ。さらに田原本線を乗り継いで、箸尾駅で下車。駅から10分ほど歩くと、「長龍」の大きな看板が見えてきます。
1963年設立の「長龍酒造」は、2021年からクラフトビールの醸造をスタート。2022年春には、日本酒やビールが楽しめるタップルームに、テラスやショップ、芝生広場を併設した複合施設「長龍ブリューパーク」をオープンしました。
タップルームには、クラフトビール7タップ、日本酒3タップを常設しており、季節ごとにさまざまなビールや日本酒が登場します。ビールの飲み比べセットや、日本酒を少量ずつ楽しめるコイン式の専用機もあり、気になるものがあれば少しずつ試せるのがうれしいですね。クラフトビールもまた、ビール酵母を使った発酵食品。日本酒の醸造で培った発酵の技術がクラフトビールにも生かされていると思うと、その味わいにも期待が高まります。
また、ショップコーナーでは酒粕を使ったどて焼きやカレーなど、酒蔵ならではの食事メニューも用意されています。今回の旅のランチタイムはこちらでいただきます。
食事の後は、長龍酒造の日本酒やクラフトビールなどが並ぶパーク内のショップでお土産選びを。ここでしか買えないブリューパーク限定商品もあるので、こちらもぜひチェックしておきたいですね。
箸尾駅から近鉄田原本線に乗って、西田原本駅で下車。タクシーで15分ほどの場所にある今回の宿にチェックイン。
1689年に創業した奈良最古の醤油蔵元「マルト醤油」が手がける「NIPPONIA 田原本 マルト醤油」は、築130~140年の醤油蔵をリノベーションしたホテル。「大和棟」と呼ばれる奈良の伝統建築様式がそのまま残る、趣きのある建物に宿泊することができます。
第二次世界大戦後に一度蔵を閉じてしまったものの、現在の当主により天然醸造法を再現した醤油づくりも再開。宿泊者限定で体験可能な醤油しぼり体験では、醤油の素となるもろみから醤油をしぼり出します。もろみから発せられる香ばしい香りは、醤油の美味しさの大切な要素。そのフレッシュな香りを感じられる貴重な体験です。しぼった醤油を使った葛餅も絶品で、自身でしぼったからこそ美味しさとともに感動も味わうのでした。
宿をチェックアウトしたら、2日目は田原本駅から近鉄橿原線で橿原神宮前へ、そこで吉野線に乗り変えて、飛鳥駅で下車。古代の文化が感じられる明日香村をめぐります。
飛鳥駅のロータリーにある「明日香レンタサイクル飛鳥駅前営業所」で自転車を借りて、サイクリングに出発! 周辺の見どころをめぐりながら、日本最大級の規模を誇る「石舞台古墳」を目指すルートの所要時間は、1時間30分程度。高松塚古墳の石室を再現した「高松塚壁画館」や、いつ何の目的でつくられたのか明らかにされていない巨石「亀石」など、立ち寄りたくなるスポットも多数。サイクリングマップを確認しながら、お目当てのスポットをめぐって行きます。
6世紀に築造されたと言われる「石舞台古墳」は、日本最大級の方墳。誰が埋葬されているのか未だ明らかにはなっていませんが、30個以上の巨石が積み上げられており、当時の高い土木・運搬技術をうかがい知ることができます。近くで見るとそのスケール感は圧倒的です。
時間に余裕があれば、ガイド付きでめぐる体験プラン「sokoiko!サイクリングツアー in Asuka The Beginning of Japan」(主催:明日香村商工会)に参加してみるのがおすすめです。日本の原風景が残る明日香村を地元ガイドの案内でめぐれば、古代日本の歴史や文化への理解も深まるはず!次回はこちらにもぜひ参加したいと思いました。
ランチタイムは「石舞台古墳」からほど近い、明日香レンタサイクル石舞台営業所の向かいにある施設「明日香の夢市」へ。
1階の「夢市」では、とれたての農産物やお米、加工品、お土産などを販売。2階の 「農村レストラン 夢市茶屋」では、明日香村の食材をふんだんに使った食事を提供しています。
地産地消をモットーとするレストランには、定食やカレー、デザートなど、豊富なメニューがスタンバイ。人気の古代米御膳は、地元産の古代米とともに、呉豆腐(吉野葛と豆乳で作る豆腐)や旬の野菜をたっぷりと味わえて大満足です! 噛みしめるごとに味わい深い古代米は食感もおもしろく、ひょっとしたら大昔の春日大社の酒殿では、こんな古代米を使ってお酒を醸していたのかも、などと想像しつつ舌鼓を打つのでした。
奈良県には醤油のルーツともいえる「穀醤(こくびしお)」が奈良時代に使われていたとも伝わり、醤油文化が深く根付いています。発酵文化をめぐる旅の締めくくりに、醤油蔵見学と醤油づくりを体験できるツアーに参加します。
「明日香の夢市」から自転車に乗って約3分、旧岡本邸を改修した「明日香スタンド」へ。そこから3分まずは大正7年(1918)から三代続く「徳星醤油」のスタッフが、醤油について説明しながら蔵の中を案内してくれます。醤油の製造工程を学んだ後は、実際に自分で醤油をしぼってみましょう。
醤油しぼりの体験の後には、みたらし団子を自分で焼いて食べる体験にも挑戦します。素材にも製法にもこだわった、地元の人気店「今西誠進堂」のお団子。七輪にお団子を乗せて、じゅうじゅうと焼き上がる様子を眺めるのも楽しく、さらに焼きたてのおいしさは格別!
すべての体験を終えたら、発酵文化をめぐる旅はここで締めくくり。レンタサイクルを石舞台営業所に返却し、帰路につきます。
普段何気なく口にしているお酒やビール、醤油、漬物……。
今回の旅を通して、これらはすべて発酵を介して出来上がっているということを改めて認識することができました。さらに、発酵食品は体に良いと耳にするけれど、良いだけじゃなく美味しいことも実感!今まで知らなかった奈良の魅力をまたひとつ発見しました。