地域の気候風土に根差して酒を醸す、酒どころ関西の蔵元10選
2024年02月13日
日本酒発祥の地と伝わり、酒どころと呼ばれる銘醸地が各所にある関西エリア。数多くの蔵元が、それぞれに個性や特徴のある酒を醸している。
米や水、酵母といった素材、杜氏や蔵人の酒造技術など、日本酒の味わいに関わる要素は多岐にわたる。それらの背景にあるのが、各地域によって異なる気候風土だ。日本酒、そして酒造りとは、土地そのものだといっても過言ではないだろう。
こうした日本独自の酒造文化は、「伝統的酒造り」として、2021年12月に国の無形文化財に登録され、2022年3月にはユネスコ無形文化遺産の登録に向けた提案が行われている。
そんな日本酒と酒造りの魅力を体感するには、ご当地を訪ねるのが一番。直売所の併設や、酒蔵見学を実施している蔵元もあるので、日本酒がより身近な存在に感じられるはずだ。
目次
- 【福井県】永平寺のお膝元から、国内外へ日本酒文化を発信。「黒龍酒造」
- 【滋賀県】創業以来480余年、日本でも屈指の歴史を誇る銘酒「七本鎗」の蔵元。「冨田酒造」
- 【京都府】蔵人三兄弟が日本酒界にイノベーションを起こす、京丹後の老舗蔵。「竹野酒造」
- 【大阪府】酒米から酒までの一貫造りで銘酒を醸す、大阪を代表する名酒蔵。「秋鹿酒造」
- 【奈良県】日本酒の歴史と関わりが深い奈良の地で、手作業の酒造りを貫く蔵元。「奈良豊澤酒造」
- 【和歌山県】和歌山の米どころから「紀州の風土」を届ける気鋭の蔵元「平和酒造」
- 【三重県】世界に名だたる銘酒「半蔵」の蔵元では、若き杜氏が活躍。「大田酒造」
- 【兵庫県】全国でも珍しい女性杜氏が酒を醸す、姫路城に一番近い酒蔵。「灘菊酒造」
- 【鳥取県】霊峰・大山の麓で酒米作りから携わり、辛口の銘酒「鷹勇」を醸す。「大谷酒造」
- 【徳島県】清流・吉野川の伏流水で仕込む、米の旨みが生きた酒。「芳水酒造」
- まとめ
【福井県】 永平寺のお膝元から、国内外へ日本酒文化を発信。「黒龍酒造」
曹洞宗大本山の永平寺や、国の天然記念物に指定されている東尋坊、世界三大恐竜博物館のひとつに数えられる福井県立恐竜博物館など、名所や見どころが多い福井県の嶺北地方。
冬季に日照が少なく降水量が多い特徴をもつ日本海岸気候区に属し、大陸から吹き出す冷たく乾燥した季節風が暖かい日本海を渡る際、海面から熱と水蒸気を大量に補給して雪雲が発生。福井県内でも嶺北地方は気温は低く、冬季の降雪が多い。
そして、酒造好適米「五百万石」の生産量が全国でも有数の米どころであり、良質な水源にも恵まれ、酒造りが盛んだ。小規模の蔵元が多い中、県独自の酵母開発を積極的に行うなど、酒どころとしての価値創造にも取り組んでいる。
そんな福井県の嶺北地域で、世界的にも広く知られる銘酒の蔵元がある。曹洞宗大本山の禅寺、永平寺のお膝元で、江戸時代中後期の文化元年(1804)から220年以上の歴史を重ねる、黒龍酒造だ。
代表銘柄は、九頭竜川の古名である「黒龍川」にちなんで名付けられた「黒龍」。優しく綺麗で、ふくらみのある飲み口が特徴の吟醸酒だ。コンセプトは、「永遠へつながる一献。」。冷やして飲むスタイルを提案したり、全国に先駆けて大吟醸酒を市販化したり、常に進化と変革を続けてきた。今では、「日本酒好きなら一度は飲んでみたい銘酒」として、国内だけでなく広く海外にも知れ渡っている。
黒龍酒造では酒蔵見学は行っていないが、隣りには直営の小売店「石田屋 本店」があり、蔵自慢の旬の酒が購入できる。また、同じ永平寺町内には、母体の石田屋二左衛門株式会社が2022年6月にオープンした複合施設「ESHIKOTO」も。施設のひとつ「酒樂棟」は、酒ショップの「石田屋 ESHIKOTO店」とレストラン「Apéro & Pâtisserie acoya」が入り、日本酒をはじめ福井の食文化を広く発信している。九頭竜川が流れ、永平寺の山や田畑が広がる風景を楽しみながら、黒龍の世界観に浸ってみてはどうだろう。
基本情報
- 日本語名称
- 石田屋 本店
- 郵便番号
- 〒910-1133 福井県吉田郡永平寺町松岡春日1-38
- 電話
- 0776-61-3733
- 営業時間
- 10:00~16:30
- 定休日
- 日曜(その他臨時休業あり)
- 外国語HP
- なし
- 交通アクセス
- えちぜん鉄道勝山永平寺線「松岡」駅から徒歩約7分
- 日本語名称
- 石田屋 ESHIKOTO店
- 郵便番号
- 〒910-1202 福井県吉田郡永平寺町下浄法寺12-17
- 電話
- 0776-63-1030
- 営業時間
- 10:00~17:00
- 定休日
- 水曜、第1・3・5火曜(その他臨時休業あり)
- 外国語HP
- ESHIKOTO 公式サイト
- 交通アクセス
- えちぜん鉄道勝山永平寺線「永平寺口」駅から車で約10分
【滋賀県】 創業以来480余年、日本でも屈指の歴史を誇る銘酒「七本鎗」の蔵元。「冨田酒造」
日本最大の湖・琵琶湖が県土の約6分の1を占め、湖国とも呼ばれる滋賀県。近江八景や琵琶湖八景などと呼ばれる美しい湖景は、人びとの憧憬を集めてきた。国宝天守の彦根城、近江商人のふるさと近江八幡、天台宗総本山の比叡山延暦寺など、琵琶湖周辺の見どころは数多い。また、鮒寿司をはじめ湖魚を使った郷土料理の数々は、湖国ならではの食文化として旅人を魅了する。
県の中央部に広がる近江盆地は、耕地面積の約9割を水田が占める関西屈指の米どころ。もちろん酒米の生産も多く、全国各地の酒蔵で使われる「日本晴」の生産量はトップクラスだ。さらに、鈴鹿山脈や伊吹山地、野坂山地、比良山地から琵琶湖に注ぐ伏流水が豊かで、冬場は厳しく冷え込むことから、関西屈指の酒どころとなっている。
そんな滋賀県で、全国屈指の古い歴史をもつ酒蔵として知られるのが冨田酒造だ。琵琶湖北東端沿岸、北国街道の宿場町として栄えた木之本宿で蔵を構えたのが室町時代の天文年間。以来480余年、15代もの長きにわたって歴史を重ね続けてきた。
酒名の「七本鎗」は、本能寺の変後に織田信長の跡目を争った「賤ケ岳の戦い」で活躍した七人の若武者、加藤清正、福島正則、片桐且元、加藤嘉明、脇坂安治、平野長泰、糟屋武則を指す「賤ケ岳の七本槍」に由来。穏やかな香りと力強い旨み、余韻の長い風味が特徴だ。酒名にちなんだ「勝利の酒」「縁起の良い酒」としても、全国に多くのファンをもつ。
十五代蔵元である冨田泰伸さんは、かつて欧米各地のワイナリーや蒸留所を巡り、地酒であることの意味や地元へのこだわりについて真の価値を認識した経験から、地酒の「地」に重きをおいた酒造りに注力。
地元の水・米・環境で醸すことにこだわり、使用する酒米の70%以上を地元の契約農家産の米でまかなっている。また、日本酒の良さを広く伝え、喜びを分かち合うために、酒粕を使った入浴料や石鹸、Tシャツ、手ぬぐい、酒器など多彩なグッズも手掛けている。
また、江戸時代に建てられた蔵を現在も酒造りに使用するなど、古いものを大切に守ることにも重きをおいている。日本酒だけを伝承するのではなく、それを取り巻く環境ごと可能な範囲で残していきたいという考えだ。酒蔵の見学はできないが、銘酒「七本鎗」の味わいを通じて作り手の想いを体感してみてほしい。
基本情報
- 日本語名称
- 冨田酒造有限会社
- 郵便番号
- 529-0425
- 住所
- 滋賀県長浜市木之本町木之本1107
- 電話
- 0749-82-2013
- 営業時間
- 9:00~17:00
- 定休日
- 不定休
- 外国語HP
- 公式サイト
- 交通アクセス
- JR北陸本線「木ノ本」駅から徒歩約5分
【京都府】 蔵人三兄弟が日本酒界にイノベーションを起こす、京丹後の老舗蔵。「竹野酒造」
日本海に面した京都府北部地域は、古くから大陸との交流窓口として発展し、「もうひとつの京都」や「海の京都」とも呼ばれる。その最北端に位置する京丹後市は、ユネスコ世界ジオパーク認定の海岸線をはじめとした豊かな自然に恵まれた地。四季折々の野菜や果物、日本海の魚介類など、食材の宝庫でもある。
また、市内の峰山町には、稲作発祥の地と伝わる「月の輪田」があり、米どころとしても名高い。綺麗な水、昼夜の寒暖差などの条件も合わさって、京丹後では古くから酒造りが盛んに行われてきた。伏見などで高い技術を発揮した、丹後杜氏のふるさとでもある。現在は、市内5軒の蔵元が、それぞれの個性を打ち出しながら京丹後の酒を守り続けている。
そのうちの1軒が、京丹後市のほぼ中心に蔵を構える「竹野酒造」だ。江戸時代後期の弘化4年(1847)に創業した蔵をルーツに、戦時中の休業を経て戦後に再設立し、170年以上の歴史を重ねてきた。
現在は、父で代表の行待佳平さんの下、長男で6代目杜氏の行待佳樹さん、次男の達朗さん、三男の皓平さんの行待三兄弟が、歴史と伝統を重んじつつ革新的な酒造りに取り組む。彼らが追求するのは、米の特性に合った酒造りと、フレッシュな酒質。地元の契約農家が育てた酒米を使い、酒米の品種ごとに純米酒を作って「蔵舞(くらぶ)」シリーズとして商品化している。さらに、ワイン感覚で楽しむ日本酒文化の創造を目指し、和食だけでない料理とのペアリングや、ワインから着想を得た新たな酒の開発など、自由な発想の日本酒を提案する。
国内だけでなく海外からも注目され、多忙な日々を送る三兄弟だが、スケジュールが合えば酒蔵見学や試飲などにも対応。事前連絡で確認し予約を入れたうえで、ぜひ体験してみてほしい。また、酒蔵の隣には、バースペース「bar362+3」を併設。不定期営業、完全予約制のシステムと、提供する全品が京丹後産のスタイルで、幻の日本酒バーとしてファンの憧憬を集めている。
基本情報
- 日本語名称
- 竹野酒造有限会社
- 郵便番号
- 627-0111
- 住所
- 京都府京丹後市弥栄町溝谷3622-1
- 電話
- 0772-65-2021
- 営業時間
- 9:00~17:00(蔵見学・試飲は要事前予約)
- 定休日
- 日曜・祝日、土曜不定休
- 外国語HP
- 公式サイト
- 交通アクセス
- 京都丹後鉄道宮豊線「峰山」駅から車で約10分
【大阪府】 酒米から酒までの一貫造りで銘酒を醸す、大阪を代表する名酒蔵。「秋鹿酒造」
大阪府の最北部に位置し、「大阪のてっぺん」と呼ばれる豊能郡能勢町。山の斜面に水田が連なる棚田や、谷間に広がる田畑、栗やクヌギの広葉樹が彩る山並みなど、のどかな里山の風景が広がり、古きよき日本の田舎という雰囲気だ。町全体が、田園と自然のギャラリーともいわれる。
茶の湯で使われる菊炭、江戸時代から信仰が続く能勢妙見山、200年以上の歴史がある能勢人形浄瑠璃など、歴史文化の薫りも高い。
そんな町の東部、歌垣山山麓の国道477号沿いに、大阪を代表する蔵元がある。明治19年(1886)の創業から130余年、六代にわたって歴史を重ねる「秋鹿酒造」だ。
創業以来、米作りと酒造りの兼業を続け、昭和61年(1986)に酒米の栽培もスタート。「酒米から酒まで一貫造り」をモットーに掲げ、平成7年(1995)に無農薬による山田錦の栽培、2022年には籾殻や米糠、酒粕を肥料とした循環型無農薬有機農法で、山田錦や雄町の栽培も始めた。「秋鹿の酒造りは土作りから始まる」と称される所以だ。
代表銘柄は、屋号と同じ「秋鹿」。創業者で初代の奥鹿之助氏が、実りの秋と自身の名前から一文字をとって名付けたという。酒の特徴は、米の甘みを感じる日本酒ならではの深い旨みと、酸が利いた日本酒らしからぬクリアでキレのある味わい。料理とともに楽しむ食中酒として最適で、多くの日本酒ファンを虜にしている。2019年の「G20大阪サミット2019」では、夕食会の乾杯酒として純米大吟醸一貫造りが採用された。まさに、大阪を代表する銘酒といって過言ではないだろう。
残念ながら蔵見学は行っていないが、直売所が併設されており現地での購入は可能。里山の美しい風景や豊かな自然、蔵がある能勢の空気などを体感するという意味でも、わざわざ訪ねてみる価値は充分にある。
基本情報
- 日本語名称
- 秋鹿酒造有限会社
- 郵便番号
- 563-0113
- 住所
- 大阪府豊能郡能勢町倉垣1007
- 電話
- 072-737-0013
- 営業時間
- 9:00~16:45
- 定休日
- 土曜・日曜・祝日(5~9月)、日曜・祝日(10~4月)
- 外国語HP
- なし
- 交通アクセス
- 能勢電鉄妙見線「妙見口」駅から阪急バス8系統で約26分の「歌垣山登山口」バス停下車、徒歩約3分
【奈良県】 日本酒の歴史と関わりが深い奈良の地で、手作業の酒造りを貫く蔵元。「奈良豊澤酒造」
「日本はじまりの地」「国のまほろば」といわれ、昔も今も国内外から多くの旅人が訪れる奈良県。神社仏閣などの文化財や建造物、それらと自然環境が一体となった歴史的風土をはじめ、長い歴史の中で育まれた醸造文化も古都奈良の大きな魅力だ。
日本酒の醸造もそのひとつ。約600年前の室町時代に清酒の醸造技術を確立し清酒発祥の地といわれる正暦寺、日本最古の神社のひとつで酒造りの神様として崇敬される大神神社、平安時代に築かれた現存最古の酒蔵が残る春日大社など、奈良には日本酒の歴史と深い関わりをもつスポットが多い。
現在、奈良県内には27軒の蔵元があり、かつて高級酒の代名詞として称された「奈良酒」の歴史と伝統を、今に受け継いでいる。奈良市内に3軒ある蔵元のひとつ、奈良豊澤酒造は日本の新時代が幕を開けた明治元年(1868)に酒の卸業として創業。その後、酒造業もスタートさせ、昭和初期に奈良市内で酒蔵を構え現在に至っている。
代表銘柄は、「豊祝」。なかでも、「大吟醸 豊祝」は2023年の新酒鑑評会で16度目の金賞に輝いた、蔵自慢の銘酒だ。山田錦を精米歩合35%まで磨き上げ、長期低温発酵によって米の旨みや甘みを最大限まで引き出した香り高く風味豊かな大吟醸に仕上げられている。
幾度も栄誉ある賞に輝いてきた実績をもつ蔵元が掲げるのは、「高品質のお酒を、多くのかたに」という理念。それを実現するため、日本酒造りの機械化が進む現代にあって、ほとんどの工程を機械化せず手作業で丁寧に仕込む昔ながらの製法が貫かれている。醸す酒の約8割が純米酒以上の特定名称酒で占められていることも、その証左といえるだろう。
基本情報
- 日本語名称
- 奈良豊澤酒造株式会社
- 郵便番号
- 630-8444
- 住所
- 奈良県奈良市今市町405
- 電話
- 0742-61-7636
- 営業時間
- 8:00~17:00(酒蔵見学は10月・11月・2月・3月の10:30〜・15:30〜、完全予約制、1人〜40人、お土産付500円)
- 定休日
- 土・日曜、祝日(酒蔵見学は土・日曜、祝日も可)
- 外国語HP
- 無し
- 交通アクセス
-
①JR万葉まほろば線(桜井線)「帯解」駅から徒歩約10分
②近鉄奈良線「近鉄奈良」駅から奈良交通バスで約15分の「上三橋」バス停下車、徒歩約5分
【和歌山県】 和歌山の米どころから「紀州の風土」を届ける気鋭の蔵元「平和酒造」
「紀伊山地の霊場と参詣道」として世界遺産登録されている高野山や熊野三山、徳川御三家のひとつである紀州徳川家の和歌山城、四半世紀を越えてジャイアントパンダを飼育するアドベンチャーワールドや白砂のビーチが美しい白良浜がある南紀白浜など、観光名所や見どころが多い和歌山県。
温暖多雨な気候で県土の約8割以上を奥深い森林が占め、古くは「木の国」と呼ばれていたとか。みかんや梅、桃、柿などをはじめとした果樹栽培が盛んで全国区のブランドも数多い。
一方、大きな平地が少なく水田での稲作には向かない土地柄にあって、古くから稲作が盛んだったのが現在の海南市溝ノ口地域。縄文後期の溝ノ口遺跡からは、集落や水田の跡が見つかっている。盆地のため昼夜の寒暖差が大きく、高野山の伏流水である地下水が豊富なことから、かつては酒造りで栄えたという。
そんな地で、昭和3年(1928)の創業から一世紀近くにわたり歴史を重ねるのが「平和酒造」だ。第二次世界大戦による休業を経て、昭和60年代までは大手メーカーの桶売り蔵として甘んじていたが、その後自社ブランドの酒造りに転向。1989年以降、全国新酒鑑評会で4度の金賞を受賞している。
代表銘柄は、和歌山の柔らかで綺麗な水を思わせる、口当たりが良く優しい味わいが特徴の「紀土(きっど)」。名前には、「日本酒を通じて紀州の風土を届けたい」という蔵人たちの想いが込められている。
「紀土」のうち「あがらの田で育てた」シリーズに使用する酒米の一部は、地元農家の理解と協力を得ながら、杜氏や蔵人が苗付けから田植え、稲刈りまで参画。土地に根差した酒造りで、地域の活性化にも繋がっているという
また、自慢の日本酒と梅をはじめ和歌山特産の果物を使ったリキュール「鶴梅」も、平和酒造を代表する逸品。酸味料や香料、着色料などの添加物を使わず、自然な風味と香りが生かされている。
さらには、「お酒を好きになるきっかけをつくりたい」、「ビールの美味しさや面白さを伝えたい」という想いから、クラフトビールの醸造事業も展開。微生物管理や発酵技術など日本酒の蔵元ならではのノウハウをビール醸造に融合させ、ユニークな商品を開発している。
蔵元では、酒蔵見学や直売は行われていないが、2020年6月、和歌山市駅直結の複合施設「キーノ和歌山」に初のアンテナショップを出店。ショップとスタンディングバーを備え、杜氏や蔵人が接客を担当している。
基本情報
- 日本語名称
- 平和酒造株式会社
- 郵便番号
- 640-1172
- 住所
- 和歌山県海南市溝ノ口119
- 電話
- 073-487-0189
- 外国語HP
- なし
- 交通アクセス
- JRきのくに線(紀勢本線)「海南」駅から車で約30分
- 日本語名所
- 平和酒店 キーノ和歌山店
- 郵便番号
- 640-8203
- 住所
- 和歌山県和歌山市東蔵前丁39 キーノ和歌山2F
- 電話
- 073-431-1178
- 営業時間
- 11:00~20:00(飲食LO19:30)
- 定休日
- キーノ和歌山に準ずる
- 外国語HP
- なし
- 交通アクセス
- 南海各線・JR紀勢本線「和歌山市」駅から徒歩すぐ
【三重県】 世界に名だたる銘酒「半蔵」の蔵元では、若き杜氏が活躍。「大田酒造」
三重県の北西部に位置し、京都府や滋賀県、奈良県と隣接する伊賀市。京都や奈良、伊勢に通じる街道が通り、古くから交通の要衝として栄えた。江戸時代には伊賀藩主・藤堂高虎が治めた伊賀上野城の城下町、伊勢神宮参拝者の宿場町として発展。今なお城下の町並みには歴史的な建物が数多く残り、当時から営業を続ける老舗も多い。
気候は、夏の蒸し暑さと冬の底冷え、朝夕と日中の気温差など、寒暖の差が激しい典型的な内陸型気候。この寒暖差により、古くから良質な酒米が作られてきた。また、伊賀市内の農地に占める水田の割合が多く、米の収穫量は県内でもトップクラス。県内の蔵元で使われる酒米の大部分は伊賀産といわれ、高い品質と安定した生産量を背景にした酒造りの文化は、脈々と受け継がれている。
そんな地に蔵を構える大田酒造の創業は、明治25年(1892)。以来130年にわたり布引山系伏流水を仕込み水とし、酒米へのこだわりや木桶仕込みを復活させるなど、昔ながらの酒造りを守り受け継いでいる。
代表銘柄は、伊賀忍者・服部半蔵の名にちなんだ「半蔵」だ。三重県産や伊賀産の酒米と、伊賀盆地の軟らかな伏流水を用いて丁寧に醸した酒は、国内のみならず海外の品評会でもさまざまな賞を受賞。2016年のG7伊勢志摩サミットでは、ワーキングディナーの乾杯酒として「半蔵 純米大吟醸 磨き40」が各首脳の盃に注がれる最高の栄誉も獲得した。
数々の栄誉に輝き、世界に名だたる蔵元となりながらも、決して歩みを止めることはなく更なる進化を目指す大田酒造。2017年、東京農業大学短期大学部の醸造学科や広島県の独立行政法人酒類総合研究所で学んだ後、県内の蔵で修業を積んだ大田有輝さんが7代目を継承。「人と人」、「料理と人」を繋ぐ酒でありたいという想いから、新商品「半蔵 &」を造り上げた。そして、2019年には24歳の若さで蔵元杜氏に就任し、29歳の現在も三重県最年少杜氏として酒造りの全責任を背負って奮闘中だ。
基本情報
- 日本語名称
- 株式会社大田酒造
- 郵便番号
- 518-0121
- 住所
- 三重県伊賀市上之庄1365-1
- 電話
-
0595-21-4709
営業時間¥9:00~17:00(見学は時期によって開催。予約制。販売店は10:00~19:00、日曜は9:00~18:00) - 定休日
- 土曜、日曜、祝日(販売店は水曜)
- 外国語HP
- なし
- 交通アクセス
- 伊賀鉄道伊賀線「上野市」駅から三重交通バス上野名張線で約10分の「上之庄」バス停下車、徒歩約5分
【兵庫県】 全国でも珍しい女性杜氏が酒を醸す、姫路城に一番近い酒蔵。「灘菊酒造」
兵庫県南西部の広大な範囲にわたる播磨地方。肥沃な土壌の播磨平野や日本でも有数の好漁場である播磨灘を擁し、奈良時代編纂の「播磨国風土記」に記されている通り、古来豊穣の国だった。豊かな自然や風土、歴史、技術は時代を越えて受け継がれ、今なお多くの特産品が生み出されている。
日本酒もそのひとつ。酒米の王様と呼ばれる山田錦誕生の地であり、自然に育まれた名水が豊富な播磨では、近畿で最も古い杜氏集団ともいわれる播州杜氏たちの高い技術力によって、酒造りが盛んに行われてきた。「播磨国風土記」には、麹を使った酒造りとしては日本最古のものとされる記述もある。
日本酒のふるさとともいえる播磨の地には、今も22の蔵元が点在。そのひとつが、播磨の中心地、姫路市にある姫路城に最も近い酒蔵、灘菊酒造だ。創業は、明治43年(1910)。以来110余年、伝統的な製法を一貫し、播磨の酒造文化を守り続けている。
酒造りを取り仕切るのは、代表で杜氏の川石光佐さん。兵庫県で初、南部杜氏としては西日本初で、全国でも3人目だという女性杜氏だ。「酒造りを五感で楽しむ」をモットーに掲げ、蔵人たちの健康や安全に気を配りながら、歴史ある酒蔵を運営している。
酒造りの特徴は、1回500kgの小仕込み。年間200石(1.8L瓶2万本分)と多くはないが、全ての工程を人の手で行う丁寧な仕込みが身上だ。なかでも、最終段階の「しぼり」は、昔ながらのしぼり機使い、通常のしぼり機では半日の工程を3日間かけてじっくりとしぼる。出来上がる酒の量は通常より約10%少なくなるが、ピュアで透明感のある酒に仕上がるのだという。
また、2700坪の敷地内には、創業時の木造酒蔵7棟が現存。木造酒蔵は見学コースとして開放されおり、自由に見学可能だ。蔵出しの日本酒が試飲できる直売所や、名物料理と日本酒が味わえる食事処もあり、五感を通じて酒蔵と日本酒の魅力を体感できる。
基本情報
- 日本語名称
- 灘菊酒造株式会社
- 郵便番号
- 670-0972
- 住所
- 兵庫県姫路市手柄1-121
- 電話
- 079-285-3111
- 営業時間
- 10:00~17:00(見学コース最終入場は16:00)
- 定休日
- 無休
- 外国語HP
- なし
- 交通アクセス
- 山陽電鉄本線「手柄」駅から徒歩約5分
【鳥取県】 霊峰・大山の麓で酒米作りから携わり、辛口の銘酒「鷹勇」を醸す。「大谷酒造」
北に日本海が広がり、南に大山がそびえる、鳥取県中部の琴浦町。平安時代、寄せては返す波の音が琴の調べに似た海岸が琴ノ浦と呼ばれたことが、町の名の由来とされている。
町内には、白鳳時代の建立と伝わる県内最大規模の国指定特別史跡「斎尾廃寺跡」、南北朝動乱を描いた太平記の舞台「船上山」、日本一認定の国指定天然記念物「伯耆の大シイ」など、名所・旧跡が多数。また、山海の幸に恵まれ、食パラダイス鳥取県を象徴する食材の宝庫でもある。
そんな地に蔵を構える大谷酒造は、明治5年(1872)の創業から150余年の歴史を重ねてきた。代表銘柄は「鷹勇(たかいさみ)」。愛鳥家だった初代蔵主が、大空を舞う鷹の勇姿に魅せられて名づけたという。以来、爽やかな辛口が特徴の味わいが、杜氏や蔵人たちによって受け継がれている。
大谷酒造では、蔵人たちが酒米作りから醸造まで一貫して携わっている。米の質を自分たちで確認し、自家精米や吸水調整など工程に活かすためだ。使う酒米は、山田錦や玉栄(たまさかえ)、鳥取県独自の強力(ごうりき)など、鳥取県産でほぼ占めている。仕込み水は、大山の伏流水。米、水ともにテロワールに根ざした酒造りで、「和醸良酒」「心にのこる酒」というモットーを体現している。
そうしたこだわりの酒造りは、蔵見学で体感することが可能。動画を見ながら説明を受けた後、実際に蔵内へ入り工程に沿って案内してもらえる。事前の予約が必要なので、HPの営業日カレンダーを確認し、ぜひ訪ねてみたい。特に、11月~4月の醸造期間中は、蔵人たちが作業する様子を見られる貴重な期間だ。もちろん、見学後に蔵元直売の酒を購入することもできる。
基本情報
- 日本語名称
- 大谷酒造株式会社
- 郵便番号
- 689-2352
- 住所
- 鳥取県東伯郡琴浦町浦安368
- 電話
- 0858-53-0111
- 営業時間
- 8:00~17:00
- 定休日
- 日曜、土曜不定休
- 外国語HP
- 公式サイト
- 交通アクセス
- JR山陰本線「浦安」駅から徒歩約15分
【徳島県】 清流・吉野川の伏流水で仕込む、米の旨みが生きた酒。「芳水酒造」
四国のほぼ中央に位置し、古くから交通の要衝として発展した徳島県三好市。2億年の時をかけて絶景の渓谷美が形成された大歩危・小歩危、四国第2の標高を誇る剣山、日本三大秘境のひとつで平家落人伝説が残る祖谷、国の重要伝統的建造物群保存地区に指定されている落合集落など、自然、歴史、文化の名所をもつ風光明媚な地域だ。
その北部、日本屈指の清流として知られる吉野川南岸の小さなまち、井川町。温暖な気候の四国では珍しく、日照時間の短さや冬の冷え込みの厳しさで、酒の造りや貯蔵に適している。
そんな環境と、吉野川の伏流水、地元産の優れた酒米に着目し、大正2年(1913)に清酒造りを始めたのが芳水酒造だ。
代表銘柄は、「芳水」。酒米の特徴を見極めて精白し、澄みきった空気と清冽な仕込み水によって、米の旨味を活かした自然の味を追求。スッキリした飲み口、艶やかでふくらみのある旨み、気品ある香りが特徴だ。
ちなみに、「芳水」の名は、幕末の志士たちが舟遊びで詠んだ漢詩に由来している。この地では、幕末から明治にかけて阿波刻みと呼ばれる煙草の生産地として繁栄。当時、志士たちは吉野川に浮かべた舟で酒を酌み交わし漢詩を詠む風流な遊びに興じていたのだとか。
大正5年(1916)に初代蔵主が芳香美味な酒を醸し、大きな評判を呼んだという。その芳香を末永く保てるようにと願い、吉野川を「芳乃川(よしのがわ)」や「芳水(よしのみず)」と漢詩に詠まれていたことにちなんで名付けたそうだ。
1992年に清酒の級別制度が撤廃され「純米酒」や「純米吟醸酒」などの特定名称による分類となってからも、それらを下支えする普通酒の品質向上に力を注いできた。全国新酒鑑評会で最高位の金賞に幾度も輝いたことが、その証左だろう。また、2003年には皇太子時代の現天皇陛下に「山峡の美禄 芳水純米大吟醸」を献上した輝かしい実績ももつ。
酒造りにおいては、清流・吉野川の伏流水に恵まれている分、酒米の扱いには特にこだわるという五代目蔵元の馬場泰地さん。蔵人たちと常にコミュニケーションを取って人の和を大切にし、全員で酒米の状況をきめ細やかに見極める。かつて初代が、芳香を末永く願って名付けた「芳水」の銘を守るために。
基本情報
- 日本語名称
- 芳水酒造有限会社
- 郵便番号
- 779-4801
- 住所
- 徳島県三好市井川町辻231-2
- 電話
-
0883-78-2014
営業時間:8:00~17:00 - 定休日
- 日曜、祝日
- 外国語HP
- なし
- 交通アクセス
- JR徳島線(よしの川ブルーライン)「辻」駅から徒歩約10分
まとめ
酒どころ関西の10府県で、各地域の気候風土に根ざして酒を醸す10の蔵元。共通しているのは、歴史と伝統を大切に守るだけでなく、革新を繰り返しながら日本酒の文化を継承しようとする姿勢だ。現地を訪ねてみると、そんな蔵人たちの想いが体感できるはず。同時に、日本酒は土地そのものということに気付くだろう。