大阪府の商人道、奈良県の相撲のルーツ、そして三重県の海女:サステナブルな日本文化のルーツを辿る1泊2日体験(大阪府・奈良県・三重県)
2024年02月28日
「サステナビリティ」という概念は、かつては環境への配慮を指す言葉でしたが、現在では世界中の貴重な文化資産や伝統を保存し、関与することを目的とした文化的・社会的サステナビリティなど、ほかの重要な要素も含まれています。複数の古都がある関西地方には、いまでも多くの独特な伝統や場所が残っており、観光客が訪れて楽しめるように整備されています。今回は、観光客が地域の大切なコミュニケーションや文化にふれる機会となるような大阪府、奈良県、三重県を旅するサステナブルな観光モデルコースを紹介します。
セカイホテル布施(大阪府布施市)
私たちは17の商店街に囲まれた「セカイホテル布施」から旅を始めました。大阪市の有名な難波・道頓堀エリアから直通電車でわずか20分でアクセスできる東大阪府の布施界隈は広く知られる観光地ではありませんが、70年以上の歴史があり、地元の人々の活気があふれる昔ながらの下町情緒が漂う場所です。セカイホテル布施は商店街の2区画に点在する空き店舗をリノベーションして、魅力的な客室にしていました。
フロントでは地元愛にあふれる親切なスタッフが宿泊客を温かく迎え入れてくれます。さらに、わずか1,000円を支払えば商店街の食べ歩きツアーに参加でき、地域の歴史や伝統的な下町料理の知識が豊富なスタッフが案内してくれます。練り天やからあげ、お菓子など香ばしくて甘い食べ歩きグルメを地元の人たちと一緒に楽しめます。
薬庵(奈良県葛城市)
次に向かったのは、大阪府に隣接する奈良県にある「薬庵」です。ここでは、そば粉100%の伝統的なそばを味わえます。居心地の良い日本家屋の雰囲気のなかで食べる素朴なそばは、山芋や大根おろしなどのトッピングとの相性抜群です。また、當麻寺の目の前に位置するこの店は、寺院を訪れる際の立ち寄りスポットとしてもおすすめです。
當麻寺(奈良県葛城市)
毎年行われる「中将姫ご縁日 練供養会式」で有名な當麻寺には驚くほどの歴史が詰まっており、何世紀も前に建てられた建築物や長年保存された宗教芸術品が揃っています。僧侶によるガイド付きの特別体験プランでは寺院の歴史を学び、一般の見学者が知ることのできない情報や見識を得ることができます。
葛城市相撲館「けはや座」(奈良県葛城市)
當麻寺から歩いて10分ほどの場所には葛城市相撲館「けはや座」があります。奈良県は、日本の国技、相撲の発祥の地といわれており、この博物館では、性別を問わず土俵に上がれ、力士着ぐるみで写真を撮ったり、力士のようにきれいに塩をまく技術を習得したりしながら、相撲の歴史的・文化的な意義を実感できます。博物館には多くの写真や資料が保存されており、土俵や相撲文化を包括的に探求できます。
志摩観光ホテル ザ クラシック(三重県伊勢志摩)
一日の締めくくりに、三重県伊勢志摩の志摩観光ホテル ザ クラシックに宿泊するのはいかがでしょうか? 英虞湾を面したこの4つ星ホテルはそのおもてなしからわかるようにサステイナビリティに取り組んでいます。特にホテルのレストラン、ラ・メール ザ クラシックでは伊勢エビやアワビなどの海の幸を中心に地元の食材を活かしたコース料理を提供し、地産地消を実践しています。くつろげるラウンジや専用桟橋、フィットネスジムも備えており、地元の工芸品を扱う魅力的な店もあるこのホテルに宿泊し2日目は三重県をさらに探索します。
ミキモト真珠島(三重県鳥羽市)
2日目の最初の目的地は、1890年代に養殖真珠産業が始まったとされるミキモト真珠島です。島内の博物館では、真珠のできる仕組みや養殖方法などを科学的な側面から詳しく解説しています。また、有名なミキモトパールクラウンや夢殿の工芸品なども展示されています。伊勢湾に隣接する海女スタンドでは、1日に5~7回、2000年の伝統を誇る海女の実演を見学できます。この実演の注目点の一つ、磯笛は海女の水の中での呼吸法で、口笛のように鳴るその音は「日本の音風景100選」にも選ばれています。
海女小屋はちまんかまど(三重県鳥羽市)
海女文化をさらに知るため私たちは「海女小屋はちまんかまど」へ向かい、昼食を取りました。ここでは、ベテランの海女が語る海女の歴史的・文化的意義を聞きながら、伊勢エビなどの海の幸の炭火焼き料理を楽しめます。また、ビーガン向けの食事も事前予約で対応しています。海女漁は、伊勢エビやアサリ、カキ、タコなどの魚介類を手作業で獲る、環境にやさしいサステナブルな漁法です。また長時間冷たい海に身を置く海女漁は生物学的身体能力の面で女性に適しているといわれています。また伝統的に女性が海女漁を行うことで、女性の地位向上にも貢献しています。これは海女漁が社会的にもサステナブルな慣習であり、さらに漁後に焚き火の周りに集まって交流することは地域のコミュニティ形成の一環としての側面があります。80歳まで海女として働いていた92歳の元気な海女頭が私たちを歓迎し、食事の準備を手伝ってくれました。その後、質問を交えた会話をし、伝統的な海女の衣装を着て一緒に踊りました。彼女たちの生涯にわたる経験を聞くことは、日本独自の伝統や生き方を身近に感じられる、本当に力づけられる体験です。
伊勢神宮(三重県伊勢市)
三重県を訪れたら、伊勢神宮への訪問は欠かせません。この神宮は日本で最も神聖な場所のひとつであり、海女漁と並ぶ2000年前からの歴史を誇ります。ここは太陽神として知られる天照大神を祀り、江戸時代には10人に1人が参拝に訪れたといわれる重要な聖地です。境内には大きな杉の木に囲まれた歩きやすい小道が多数あり、伊勢神宮の周囲には地元の工芸品店や真珠を扱うジュエリーショップ、郷土料理店が並んでいます。
ヴィソン(三重県多気町)
今回の旅の終着地となるヴィソンはショップやレストラン、体験施設など70店舗以上が集まる近代の小さな村のような複合施設です。敷地内には日本最大級のファーマーズマーケットがあり、そこでいままでに食べたなかで一番甘いトマトを味わいました。有名なパティスリーやシェフの料理が集まる「AT CHEF MUSEUM」や、嗜好に合わせた料理、米、味噌、カツオ節を売っている店などもあり、食べることが好きな人には楽園のような場所です。ヴィソン併設のホテル・ヴィソンには有名な漢方薬の産地である町にちなんで名付けられた薬湯「滝」があります。さらに、ドッグホテルや新しい家族を求める犬や猫の里親を探すアニマルシェルターも併設されているほか、ウッドクラフトなどの体験を楽しめる店舗もあります。
文化的な伝統や慣習を維持し、保存していくためには、文化的な伝統や慣習が第三者から認められることが重要です。要するに、文化的な伝統や慣習の維持・保存の成功は旅行や体験で伝統や慣習にふれ、伝統や慣習について共有することで得られることが多いのです。地元の人々と交流し、誇り高い生活にふれることで、衰退しつつある工芸品や文化を再び栄えさせる可能性が生まれます。そのための1つの方法しては、今回の旅のような未踏の地を訪れることが挙げられます。