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砂丘の美しさに圧倒される。
京都や奈良などの日本の古都や、活気に満ちた「歓楽の都」大阪、そして神戸牛で世界的にその名が知らていれる兵庫県神戸市などがある関西地域はコロナ禍からいち早く立ち直り、現在では年間数千万人の観光客を迎え入れています。しかし、この長い中断期間を経て、関西観光のサステナビリティや後世に何を残すことができるかなど、新たな視点が求められていると感じました。この答えを求めて、私たちは人と自然環境をつなぐものの関係性や制限、革新について学ぶ旅に出かけました。
砂、水、そして時間だけで生み出された彫刻の細かさには、息をのむほどの感動を覚える。
関西地域の西隣に位置する鳥取県の鳥取砂丘で知られる鳥取市から旅を始めました。まず訪れたのは、鳥取空港から車で15分ほどの場所にある「砂の美術館」。壮大な寺院や賑やかな市場、そして1,000年前のミイラなど、まるで古代エジプトのような風景が広がっていました。それらは世界唯一の砂像専門の屋内施設である砂の美術館の展示作品の一部です。展示作品は、鳥取市の精巧な砂と隣接する多鯰ヶ池の水だけを使い、世界中から集まった職人チームによって数週間から数ヵ月かけて制作されています。
芸術へと昇華される。
砂でできていると思えないほど豊かな表情をもつ像。
鳥取砂浜 砂の美術館は来館者を古代エジプトへとタイムスリップさせる。
「砂の美術館」入口。
エジプト展は2024年1月3日に終了し、フランス展に向けて、彫刻は解体され、新たな創造が始まります。このように、砂の美術館を訪れる人々は、砂を通して世界の名所に赴き、リサイクルと日本の非永久的な美を融合させた一期一会の芸術にふれられます。
人間は、広々とした砂丘を歩く小さなアリのように見える。
大自然が頂点に君臨する様子。雄大な鳥取砂丘に対比して小さく見える人々の姿。
カニ寿司や鳥取和牛など、鳥取県の名物料理を昼食で楽しんだ後、私たちは鳥取県の象徴であり、山陰海岸国立公園の一部でもある有名な砂丘に向かいました。砂丘は砂漠ではなく、10万年以上にわたる自然の力の産物であることを、ガイドが教えてくれました。鳥取砂丘は千代川により日本海に運ばれた砂が堆積し、沖合の波により岸へ打ち上げられ、強風により内陸に運ばれた砂が、風という大建築家によって絶えず形を変え、波紋を広げているのです。
青い空と茶色い砂のコントラストが見事。
美しい鳥取砂丘。
全長16km、幅2.4kmの鳥取砂丘を散策すると、自然の生命力に深い感銘を受けることでしょう。しかし、ケガには注意が必要です。砂丘保護のため、車の乗り入れが禁止されているので、万が一の際は鳥取砂丘レンジャーの助けを借りることになります。レンジャーはこの素晴らしい生態系を脅かす行為をされないように監視し、保護も行っています。
「馬の背」とよばれる壮大な砂丘列。
だからといって、砂丘をデリケートなガラスのように扱う必要があるということではありません。「馬の背」とよばれる壮大な砂丘列を一歩ずつ苦労しながら登った後、砂に沈み込んだ靴の痕跡が風ですぐに消されるのを目の当たりにした瞬間、そのことを深く感じました。
私たちが参加したフォトガイドツアーで撮影されたもの。
鳥取砂丘や浦富海岸での楽しみ方はいろいろあります。スリルを求める人には、サーフィンやカヤック、パラグライダー、サンドボード、ファットバイクなどのアクティビティがおすすめです。ほかにも、ヨガやSUP、フォトガイドツアーなど、リラックスできるアクティビティもあります。これらのアクティビティや予約については、「鳥取アクティビティ」がお手伝いしてくれます。
温泉街には湯けむりが上がり、いつも霧がかっているよう。
私たちは砂丘を後にして、鳥取県から兵庫県北部の湯村温泉に向かいました。湯村温泉は日本で最も魅力的な温泉のひとつです。源泉からは地下深くの太平洋プレートによって300℃以上に加熱された温泉が湯村断層を通り毎分470Lも湧出しています。地表に達する頃には98℃まで冷えますが、国内でも屈指の高温泉を誇り、まさに「湯村」という名にふさわしい場所です。
荒湯は天然の熱湯を無料で提供し、寒い日には心地よい暖かさを授ける。
湯村温泉は、火山活動ではなく地殻変動によって温められています。そのため、無色透明の弱アルカリ性で、日常的な使用に適しています。地上のタンクで65℃まで自然冷却した温水は一般家庭に送られ、洗濯や食器洗い、洗髪に利用されており、美肌効果もあるといわれています。この温水は飲用に適しており、かつては湯村温泉の源泉「荒湯」の98℃の湯を料理に使用することもありました。せっかくなので私たちもその料理を体験してみました。
地元の人も観光客も、温泉の熱湯を料理に使う。
湯村の荒湯の公衆浴場(薬師湯)の源泉で卵料理。
町の中心部にある「荒湯」では、フックのついた網を使って卵や野菜を茹でたり、飲み物を温めて飲んだりすることができます。また、『千と千尋の神隠し』を思い起させる日本の城のような形をした湯村温泉のホテル「朝野家」のように、温泉を室内の冷暖房に利用する施設もあります。さらに、お湯から電気を生み出す研究も進行中で、湯村は持続可能な資源を最大限に活用するモデルとして注目されています。
湯村温泉のホテル「朝野家」に宿泊。
竹田城跡。
旅の2日目は、"天空の城 "として知られる竹田城跡に立ち寄った後、土と火を使った工芸品に目を向けました。竹田城跡が天空の城と呼ばれる理由は、時期や時間帯によって城跡が雲に浮かんでいるように見えるためです。この現象が見られるベストシーズンは秋で、10月から11月にかけての日の出の時間帯と言われています。
一見すると素朴だが爆発的な美味しさ!
城跡を見学した後、昼食のため「山里料理 まえ川」に立ち寄りました。木材を使った内装の歴史ある建造物で、気温とは関係なく、暖かく居心地の良い雰囲気が漂っています。ここで提供される料理は、地元丹波篠山の食材を使ったもの。私たちが堪能したランチコースには、料理に使われている地元食材の名前が記されているだけで、どんな料理が推測しながら食事を楽しむことができました。陶器の食器は料理をよく引き立てており、丹波篠山出身のオーナーやシェフの誇りが感じられる素朴なレストランは、この土地の魅力にあふれていました。
篠山城
また、『レジェンド&バタフライ』など映画のロケ地として人気の篠山城も訪れました。篠山城は歴史的にも重要な城として知られます。さまざまな文化イベントやワークショップ、保存活動など持続的な取り組みを通じて地域社会と密接に関わっており、この歴史遺産は次世代へと引き継がれようとしています。
丹波篠山の職人と会話を楽しむ。
丹波焼は日本六古窯の一つです。丹波焼について学ぶには、生産地の立杭と並ぶ主要拠点のひとつ、丹波篠山にある兵庫陶芸美術館がおすすめです。そこで私たちは、地球にもやさしく、持続可能な方法で丹波焼の土を調達する継続的な取り組みや、800年以上前から続く自然釉の技法について学びました。
丹波焼は、古くから伝わる伝統工芸品でありながら、その慣習に縛られることなく、日常使いから茶道で使われる厳選された道具まで、用途に応じた多様性のある焼き物が作られています。その魅力を肌で感じるため、私たちは約60もの窯元が集まる四斗谷川沿いの信水窯を訪れました。案内してくれたのは、信水窯2代目の陶芸家・市野信水さんでした。お店に足を踏み入れた瞬間に、温かさを感じる素朴な風合いと気品が調和した市野さんの作品に魅了されました。そして工房見学では本当に心温まる体験をしました。
自らの手で築いた窯の横に並ぶ陶芸家の市野信水さん。
丹波篠山の土から生まれた丹波焼。
完成した丹波焼。
市野さんはすべての作品を一つ一つ手作りし、全く同じものが二つとないようにするだけでなく、窯まで手作りしていました。その仕事ぶりを見ているうちに、「サステナビリティ」の本当の意味が見えてきました。それは人間と自然環境の調和や制限の認識とその管理だけでなく、仕事と回りを取り巻く環境への情熱と敬意から始まるものでした。そこから出発すれば、サステナビリティは後からついてくることが分かりました。いつの日か、この教訓が関西地域や日本だけでなく、世界中で生かされる日が来ることを願います。
偉大な陶芸家の仕事。これらは伝統文化であると同時に、日本で受け継がれるべき宝物だ。
自分の作品が人々に評価されていることを知ったときの笑顔。