御食国から~ 古来より受け継がれる美食文化を肌で感じる旅  

  (御食国~福井若狭から京都への鯖街道を結ぶ旅~)

御食国から~ 古来より受け継がれる美食文化を肌で感じる旅
  (御食国~福井若狭から京都への鯖街道を結ぶ旅~)

2023年03月07日

The KANSAI Guide

2013年に「和食;日本人の伝統的な食文化」がユネスコ無形文化遺産に登録され、和食への注目が世界的に高まっていますが、みなさんは和食に使われる食材の歴史について考えたことはありますか?千年以上の間、朝廷(天皇)がおかれた京都は和食と深い関わりがあり、関西地方とその周辺は食材の歴史を垣間見ることができる場所です。

「和食」の歴史とそれにまつわる影響を探るため、福井県の日本海側を訪れました。福井県の若狭地方にある小浜市は、こぢんまりとした港町です。元アメリカ大統領バラク・オバマ氏と名前が似ていることで2000年代後半に脚光を浴びましたが、実は昔から有名な港町でした。

江戸時代(1603~1868年)、小浜市は中国や韓国との貿易港として、また日本海沿岸を回る国内交易船「北前船」の寄港地として重要な港町でした。貿易の恩恵を受けつつ、若狭湾の豊かな漁場が地域を繁栄させました。

また、若狭地方は、海産物をはじめとした食材の質が非常に高く、京都の朝廷へ食材を献上する役割を担っており 、「淡路島(兵庫)」「志摩(三重)」と並ぶ、「御食国(みけつくに)」の献上国のひとつです。若狭の食材の中でもサバは重要で、小浜市と京都をつなぐ陸路は「鯖街道」とよばれていました

「御食国若狭おばま食文化館」(福井県小浜市)

この食文化を深く知るために、小浜市内の「御食国若狭おばま食文化館」を訪れました。1階のミュージアムには、御食国といわれた地域の食材模型や若狭の献上品の展示のほか、鯖街道の歴史や寿司の起源、全国各地のお雑煮の展示があります。

2階では、若狭地方の伝統工芸である漆塗りの箸や紙漉きなど、加工体験ができ、3階には気軽に立ち寄れる温泉もあります。

「護松園」GOSHOEN(福井県小浜市)

長きに渡り繫栄した北前船が港町へもたらした交易と富の痕跡は現在も残っています。小浜市にある「護松園」は、北前船の商人「古河屋」の5代目が文化12年(1815年)に建てた威厳のある建物 で、福井県の有形文化財です。

古河屋は、小浜藩主をもてなす場所として北前船の運航で築いた富で全国から厳選した素材を使った「護松園」を造りました。庭の松を存分に眺めるために屋根の一端を張り出した形状にしたほか、2階にある月を眺めるためだけの部屋など、建物には小浜藩主をもてなすためのこだわりが見られます。

小浜市の箸メーカー「箸蔵まつかん」によって、当時の面影を残したまま修復された護松園は、無料で入館できます。魅力的なコーヒー店や小さな図書館、シェアオフィスがあるほか、若狭塗やカラフルな箸の販売店が入っています。蔵を改装したギャラリーも併設されており、北前船に関する展示や若狭塗の展示があります。

創作イタリア料理「ラヴェリタ」(福井県小浜市)

小浜市の海沿いを歩くと、チーズ工房が併設された一軒家レストラン「ラヴェリタ」があります。このお店では、イタリアで経験を積み、イタリア語と英語に堪能なオーナーシェフが、自作のチーズと地元若狭の新鮮食材を最大限に生かした創作イタリア料理を幅広い価格帯のコース料理という形で提供しています。
また、シェフは、地産地消に力を入れているだけでなく、地元の農産物を使うことで高齢化が進む農家をサポートしようと奮闘するなど、地元生産者とのつながりを非常に大切にしています。

国宝「明通寺」と旅館「松永六感」(福井県小浜市)

鯖街道の小浜市を囲む山麓ルートに、大同元年(806年)に創建された、福井県の国宝「明通寺」があります。一続きの石段を上ると、威厳ある木造の山門と風化した三重塔、そして厳かで優雅な本堂が建っています 。 このような古刹には珍しく、早朝の静寂の中、本堂で行われる真言宗の瞑想「阿字観(あじかん)」に一般客も参加することができます。

明通寺に宿坊はありませんが、徒歩圏内に全5室の旅館「松永六感 藤屋」があります。松永六感では、「五感の先をひらく」をコンセプトに、明通寺での早朝瞑想への参加や、併設する自家農園での野菜収穫体験、美しく華やかな創作精進料理の食事などを通じて五感を整え、自分と向き合うマインドフルネス体験ができます。また、美しい景観の広々とした部屋に快適な布団やベッドが備わっています。ライブラリー付きの共有ラウンジでは、寒い季節になると薪ストーブと囲炉裏で暖をとることができます。

「SOWER(ソウアー)」(滋賀県長浜市)

福井県小浜から京都へと繋ぐ鯖街道の途中に位置する滋賀県湖北地方には、この土地ならではの長い歴史の中で育まれた発酵食や醸造、伝統漁などの豊かな食文化があります 。今回訪れた、自然豊かな琵琶湖国定公園内にあるオーベルジュ「ロテル・デュ・ラク」のレストラン「SOWER」では、アメリカ出身の料理長が、この独特な土地の歴史や風土を読み解き、それを再解釈したイノベーティヴな料理で私たちを驚かせてくれました。地酒やワイン、カクテルなど1品に付き1ドリンクのペアリングが実に楽しく、ディナーの時間があっという間に過ぎてしまいました。

「熊川宿」(福井県若狭町)

当時、鯖街道だった道のほとんどが、現在は自動車道に変わってしまいましたが、当時のまま残されている場所もあり、そのひとつが天正17年(1589年)に整備された宿場町、熊川宿です。

国の重要伝統的建造物群保存地区に指定されており、江戸時代から明治、大正の伝統的な建物が軒を連ねています。全長1.1kmの細い街道には、住居や商店、博物館やカフェ、宿などが立ち並び、時折、路肩を流れる用水路の水音が聞こえ、150年以上前の旅人が体感した風景を想像できます。

熊川宿は戦禍を免れたものの、長年の放置による老朽化が課題となっています。福井県出身の時岡壮太氏が率いる地元企業の「株式会社デキタ」では、熊川宿を活性化させ、地域経済を循環させようと、多方面からアプローチを図るプロジェクト「八百熊川」を展開しています。

デキタ本社は、かつて問屋だった古民家の敷地内にあり、地域で作られた陶器や茶葉、粒マスタードなどをオンラインで販売しています。

デキタは、空き家と宿泊施設の問題を解決するため、空き家となっていた数件の古民家を宿泊施設へとリノベーションしました。このため、宿泊施設は古民家の伝統的な外観を残しつつ、快適な浴室や寝室を備えたモダンで魅力的な内装になっています。

大規模に改装された室内は高い天井に温かい雰囲気が漂うくつろげる空間になっています。八百熊川で運営している宿には全て現代的なキッチンが付いているので、自炊もできますが、地元の女性たちが調理した、できたての家庭料理を届けてもらうこともできます。

また、かまどを使った調理体験もでき、体験ではスタッフによる必要最低限のサポートのもと、かまどへの火のつけ方やごはんの炊き方、味噌汁作りができます。八百熊川での、こうした体験や宿泊を通して、古き良き日本の暮らしが体感できます。

宿をチェックアウトし、京都を目指して鯖街道を進むと、街道沿いにサバの盛り付けがあるそば店やサバ寿司を扱う店も見えはじめ、当時の鯖街道の面影を感じることができます。

京都の中心部まで来ると、鯖街道の終点は目前です。終点は賀茂川に架かる出町橋のたもとで、近くには下賀茂神社があります。石碑が立つ終点から200~300m先に京都御所があり、昔は若狭の一流食材が天皇へ献上され、その余剰品は「京の台所」として有名な「錦市場」へ卸されていました。

京の台所、「錦市場」(京都府京都市)

かつて卸売市場だった錦市場は、現在では多くの商店や飲食店が立ち並ぶ京都錦市場商店街として、地元の人や観光客で賑わっています。京都ならではの食材のほとんどがここで手に入るといわれ、若狭から鯖街道を越えてきた食材(現在はトラック輸送)も並びます。ずらりと商品が並ぶ390mの商店街には多様な香りが漂い、試食を勧めてくれる威勢のよい店員もいます。試食だけでお腹が満たされてしまいそうですが、次の目的地のためにお腹に余裕をもたせつつ、旅を続けます。

「草喰(そうじき)なかひがし」(京都府京都市)

銀閣寺」で知られる東山慈照寺の近くに、ひっそりと佇む木造二階建ての建家が懐石料理店「草喰なかひがし」です。ミシュランの二つ星を獲得しており、「若狭おばま御食国大使」に任命されている店主の中東久雄氏と店の料理人たちが、美しく盛り付けられた料理を提供してくれます。

中東氏は料理に使う野菜を自ら収穫することを大切にしており、早朝に山菜などを探しに、自ら山へ足を運びます。数十年に及ぶ食の経験から選び抜かれたそれらのこだわり食材は「おまかせコース」に使われ、誰もまねできないような風味や食感を生み出しています。

今回は、海に面した小浜市から鯖街道の山を越え、京都都心までの旅を通じて、日本の食文化や和食の魅力を学ぶことができました。次は、御食国のことをもっと知るため、淡路や志摩にも足を運んでみたいです。

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