人形浄瑠璃基礎知識
2022年02月01日
日本人の感性が息づく芸能
「三味線」の伴奏で「太夫」が物語を語る、日本の伝統的な芸能が「浄瑠璃」です。
15世紀中頃に生まれ、その後広く流行した牛若丸と浄瑠璃姫の恋物語の主人公の名前にちなんで「浄瑠璃」と呼ばれるようになりました。
浄瑠璃に合わせて人形を操るのが「人形浄瑠璃」で、太夫、三味線、人形遣いの「三業」が息を合わせて表現する総合芸術です。
“息づかい”と“間”の美学
三味線は、太夫の自由な表現を支えるため、その息づかいや間の取り方に心を配ります。一方、人形遣いは、語りに合わせて人形を動かしますが、人形同士の目線や距離感を常に感じながら演じます。繊細な感性をベースにした、丁寧で緻密な作業、簡素な表現が命の芸能。そこには、日本人の感性が凝縮されています。
守り継がれる豊かな人形文化
「三業」が結びつき人形浄瑠璃が成立したのは、16世紀末~17世紀初めの頃とされています。西宮の人形操りをルーツに、京都や大阪を中心に発展し、淡路の人形座や阿波(徳島)の箱まわしが全国を巡業して、その魅力を日本中に伝えました。人形は三人遣い以外にも一人遣いや糸操り、車人形など多彩な形態があります。また、文楽のように高い芸術性を追求するもの、地域の娯楽として楽しまれているもの、神事として奉納されるものなど、地域ごとに多様な形で継承されています。
三業(さんぎょう)の融合
太夫(大夫) たゆう
太夫は床本を見て浄瑠璃を語りますが、西洋音楽のような楽譜はありません。リズムやメロディのみならず情感を込めて「語る」ことに重きを置き、老若男女、善人、悪人などあらゆる人物になりきって、すべての台詞や仕草、情景描写、物語の背景などを一人で語り分けます。
三味線 しゃみせん
人形浄瑠璃で使うのは、幅のある力強い音色を特徴とする太棹の義太夫三味線です。厚く重いバチで絹の糸をこすったり、はじいたり、たたきつけたり。体の芯まで響く重厚な音、すすり泣くようなか細い音、不安をかき立てたり、時には寒さや暑さまで感じさせるなど、驚くほど多彩な表現がなされます。
人形遣い にんぎょうづかい
三人遣いの人形では、頭と右手を遣う「主遣い」と、左手を遣う「左遣い」、足を動かす「足遣い」の3人が、息を合わせて一つの人形を操ります。人形の目線や手先の細やかな動き、そこに地面があるかのように歩く、立つ、座るといった基本の所作が決め手。人形に命が宿り、人間以上に人間らしく見える不思議な人形の世界が広がります。
人形のかしら
地域や人形座によって違いがありますが、目尻のとがった「角目頭」は立役(善人)、目尻の丸い「丸目頭」は敵役(悪人)に使われます。未婚の女性は「娘頭」で、細い眉が墨で描かれ、口元から白い歯がのぞきます。既婚の中年女性は「女房頭」で、剃られた眉が青で描かれ、お歯黒。老女は「婆頭」と呼ばれ、白髪で深いシワが刻まれています。このようなかしらの決まりごとを知ると、登場人物の役割や本性が推測できて、人形浄瑠璃の楽しみ方が深まります。