1300年の古刹を丸一日かけて体感する、特別な時間
2022年01月31日
古代7世紀の創建から1300年近くの歴史を重ねる古刹、三井寺。焼き討ちや寺領没収などの度重なる災難に見舞われながら、その都度復興して蘇り続けたことから「不死鳥の寺」と呼ばれています。また、その長い歴史の中で受け継がれてきた寺宝は、国宝64点、重要文化財720点。日本でも屈指の文化財の宝庫です。
そんな三井寺を舞台とした特別文化体験は、非公開文化財の見学、高僧による法話、国宝建造物での座禅、境内宿坊でのプライベートステイ、密教儀礼に触れるお勤めなど多彩。一つひとつのプログラムはもちろん、丸一日かけて三井寺で過ごすことにも、特別な価値を感じるはずです。
度重なる災難から蘇り続け、約1300年の歴史を重ねる「不死鳥の寺」
日本最大の面積と貯水量を誇り、「母なる湖」「近畿の水瓶」とも呼ばれる、滋賀県の琵琶湖。その南西にそびえる長等山の中腹に広大な敷地を構える三井寺が、滋賀県での特別文化体験の舞台です。
正式名称は、天台寺門宗総本山 長等山園城寺。その歴史は古く、7世紀に天智天皇の子である大友皇子と弟の大海人皇子の間で勃発した壬申の乱の後、敗れた大友皇子の子である大友村主与多王が父の菩提を弔うために建立したと伝えられています。その後、9世紀に唐から戻った円珍和尚によって中興され、創建から数えて1300年以上にわたる歴史を重ねてきました。
そんな古刹には、64点の国宝と720点の重要文化財が所蔵されており、国指定文化財の数と質の高さは全国屈指です。しかし、それらの寺宝は平穏無事な時のなかで守られてきたわけではありません。
中興の祖である円珍和尚の死後、門徒間の確執から比叡山延暦寺との対立が激化。幾度となく焼き討ちに遭い、その数は小規模なものも含めると50回以上にものぼるといわれます。その後も、源平の争乱や南北朝の争乱、豊臣秀吉による寺領没収といった幾多の災難に見舞われました。
そんな度重なる災難を乗り越え、その都度復興され蘇り続けてきた「不死鳥の寺」。そこには、円珍和尚をはじめお寺の歴史を築いた先人に対する敬意、お寺と御仏への篤い帰依など、三井寺を拠りどころとする人びとの奇特な心が今なお息づいているのです。
国宝の勧学院客殿で座禅を体験し、無の境地を知る
三井寺での特別文化体験は、プログラムに参加することだけに留まりません。さまざまな体験を通じて、三井寺そのものを体感するといっても過言ではないでしょう。
悠久の歴史を持つ名刹のご住職によるお話もそのひとつ。御仏の教えを説く法話、創建からの歴史や「不死鳥の寺」と呼ばれる所以、国宝や文化財など寺宝を守り継ぐ責務とご苦労など、ご住職直々の貴重なお話で、三井寺の世界へと誘っていただきます。なお、ご都合がつく場合には、三井寺の第164代長吏(最高位の住職)の福家俊彦氏から、直々にご案内いただくことができます。
一般非公開の国宝建造物「勧学院客殿」では、特別拝観と座禅を体験。まず、名だたる武将や将軍も着座した場所や、狩野派が手がけた障壁画など、貴重な国宝建造物の内部を見学します。
その後、縁側に場を移して座禅の時間。目の前の美しい庭を眺めながら、座禅の意義、作法や姿勢について、僧侶から説明と指導を受けます。何より印象的なのが、「座禅とは、人にやらされるものではありません。自らの意志で無の境地に入り、あとは全て仏様にお任せするのです」というお話。錀(りん)の音を合図に目を閉じると、次第に心が鎮まり、気になっていた境内の鐘の音や鳥の声が次第に耳に入らなくなります。僧侶が仰る無の境地というものが、体験を通じて深く理解できた気がするのです。
境内に佇む1棟貸しの宿坊で、寺宝と御仏に抱かれて眠る
三井寺そのものを体感するという意味においては、宿泊も大きな要素。今回の特別文化体験では、宿泊も三井寺境内です。
宿泊先となる「宿坊 和空三井寺」は、約400年の歴史をもつ三井寺の僧坊、妙厳院を改築した、1日1組限定の宿坊。1棟貸しのプライベート空間で優雅なステイが楽しめるラグジュアリーな宿泊施設でありながら、その本質は僧侶専用の宿舎だった僧坊の歴史を受け継ぐ、寺の宿坊です。仏間には、山内の寺院が所蔵する一般非公開の大日大聖不動明王像を安置。凛とした空気が流れる空間で心静かに合掌するひと時は、ホテルやコテージはもちろん日本旅館でも体験できない貴重な時間となることでしょう。
そして、日暮れとともに参拝者の気配がなくなり、夜の闇と静寂に包まれる古刹の境内。国宝や重要文化財など数々の寺宝と、御仏に抱かれるように一夜を過ごすのです。日の出とともに目覚め、仏間で合掌する頃には、宗教や信仰に関係なく御仏の存在をぐっと近くに感じていることと思います。
導師による天台密教の儀式作法に導かれ、御仏と一体に
三井寺の朝は、御仏へのお勤めで始まります。宿坊で目覚め、仏間の不動明王に合掌した後、早朝の清澄な空気が流れる境内を歩き、高台にある観音堂で朝のお勤めです。
三井寺の観音堂は、西国三十三所観音霊場の第十四番札所として多くの参拝者を集める、観音信仰の聖地。御本尊の如意輪観音が鎮座する大きなお堂は、江戸時代の貞享3年(1686)に火災で焼失し、元禄2年(1689)に再建されました。
堂内で行われるお勤めは、単に経本を読み上げて観音様に読経を捧げるだけではありません。僧侶の代表である導師が、内陣に配された礼盤(らいばん)と呼ばれる座床に上がり、法具などを用いた所作を施します。それに合わせて、一堂に会した僧侶たちがお経と真言を唱えるのです。
「先ほど私が行った一連の所作は、天台密教の儀式作法に則っています。心に仏を思い浮かべて手指で印を結び、真言を唱える。これによって、仏と一体化するのです」
そんな導師のお話を伺うと、これまで何となく見てきた仏教儀礼や、それが行われるお寺という場に対する理解が一層深まります。
1300年の古刹、「不死鳥の寺」で過ごす一日。特別な場での特別な体験を通じて、仏の存在や教え、お寺の文化を身近に感じられることでしょう。こうした発見や気づきこそ、三井寺そのものを体感することなのだと思いました。