特別体験を通じて感じる、多様性と個性に富んだ大阪の「面白さ」
2022年01月31日
日本の長い歴史の中で経済の中心地として発展し、アジア一帯からの商人や旅人を迎える玄関口だった大阪。人と人が複雑に交差するなかで、大阪独自の風土や人間性が醸成されてきました。
しばしば「面白い=Fun」と形容される、大阪に対するイメージも然り。でも、せっかくなら「Interesting」の部分まで踏み込んでみることをおすすめします。
そうすることで見えてくるのは、ステレオタイプなイメージとは異なる大阪の素顔。町、人、文化、歴史、食などさまざまな特別体験を通じて、多様性と個性に富んだ大阪の「面白さ」を体感してみましょう。
そぞろ歩きで楽しむ、日本一長い商店街
大阪観光の玄関口、新大阪駅から車に乗り込み南へ走ること20分足らず。大阪市街の中心部、緑が広がる大きな公園のそばで車を降り、人の賑わいに導かれて天神橋筋商店街へと歩を進めます。
商都大阪の街場には多くの商店街がありますが、ここは別格。南北約2.6kmにわたって延びる通り沿いに、約800もの店が軒を連ねる日本一長い商店街です。その歴史は古く、江戸時代前期に大阪天満宮の門前町として栄えたのがルーツといわれています。
行き交う人の波にのってぶらり歩いてみると、衣食住さまざまな店に目移りが止まりません。店先で、店主と客が商売も買物もそっちのけで世間話に興じる光景もしばしば。目先の儲けよりも客とのコミュニケーションを大切にする大阪商人と、店は単に物を買うだけの場所ではないと考える大阪庶民との深い関係性を感じさせられます。
そんな商店街の光景を見て自分もその一部になってみたいと思い、気になる店に次々と訪問。お喋りとショッピングを満喫してひと息ついた時には、買った物よりおまけのほうが多いことに気づくのでした。
菅原道真公の御霊が鎮まる「天満の天神さん」を特別参拝
商いの町の一員になった気分で楽しんだ天神橋筋商店街のそぞろ歩きも、南の端まで辿り着いて終了。両手を塞いでいた買物袋をバッグの中にまとめ、すぐ近くの「天満の天神さん」、大阪天満宮を訪ねます。ここでは、大阪を代表する能楽師の能を特別鑑賞。その前に、開演までの時間を利用して、閉門後の特別入場で貸し切り状態の境内を、神職の方に案内していただきます。
まずは手水舎で心身を清め、本社を参拝。本社奥の本殿には、「天神さん」こと菅原道真公をはじめとする御祭神五柱が祀られています。能の鑑賞に先立って、学問や芸能の神として知られる天神さんにご挨拶です。二礼二拍手一礼の後、さらに深々と一礼して返り見た境内には夕暮れの余韻が残り、穏やかな時間が流れています。
せっかくなので、大阪天満宮創祀のルーツである大将軍社にも参拝。道真公が太宰府へ向かう途中に立ち寄り、旅の安全を祈願したというお社で、道真公に思いを馳せながら大阪の旅の安全を祈ったのでした。
本殿内の神域を舞台に、大阪を代表する能楽師の能を鑑賞
すっかり陽も落ち、次第に夜の闇に包まれていく境内。正面中心の本社からは灯りが漏れ、神秘的な雰囲気が漂っています。この後は、特別文化体験の能鑑賞。境内にも、特別な空気が満ちてきているように感じます。
神職の方に先導していただき、いよいよ本社の拝殿内へ。神事や奉納行事が執り行われる一般非公開の神聖な空間に身を置くだけで、心が洗われるようです。畳敷きの拝殿から奥に広がる板張りの空間は、供物や献上物を捧げる幣殿と、道真公など御祭神が鎮まる本殿。ともに、神職の方や奉納行事に関わる方のみが立ち入りを許される神域です。
拝殿の椅子に座り背筋を伸ばして待つことしばし、大阪を代表する能楽師、上野朝義師と一門の方々が登場。幣殿から本殿内陣へと歩を進め、奥に鎮座する神に深々と一礼した後、能の代表的な演目「高砂」が始まりました。
主役であるシテを務めるのは、重要無形文化財総合認定保持者の上野朝義師。軽快な囃子と息子である朝彦師の謡に合わせ、おめでたく格式高い「高砂」を舞い上げます。荘厳華麗な姿に惹き込まれ、瞬きや息をするのも忘れるほどです。本殿に鎮座する神が降臨したかのような、神々しさすら感じます。
「高砂」の謡と舞が終わり、本殿が静まりかえった時に覚えたゾクゾクするような感覚。それは、能の世界観や本質に触れられた証だと信じてやみません。
最上の空間と景色、食に癒される、箕面の森の一軒宿
神域で能の世界に浸った特別な体験を感慨深く噛みしめつつ、夜の静寂に包まれた大阪天満宮を後にします。車に揺られること30分あまりで、大阪府北部の明治の森箕面国定公園内にある一軒宿、音羽山荘に到着です。
玄関では、大正15年(1926)築の日本建築が、自然の岩肌を取り入れた中庭に調和して佇む風景に感銘を受けました。選書が並ぶラウンジでビンテージのスピーカーから流れる心地よい音楽を聴きながらウェルカムドリンクをいただき、チェックインを済ませます。
ひと息ついたところで、階上のお部屋へ。特別室「森の詩」に入ると、リビングとベッドルームから眺める中庭と森の景色にまた感嘆。大正時代に作られたガラス窓が景色を柔らかに見せてくれるのだと、女将が教えてくれました。翌朝の景色にも、期待が高まります。
そして、お待ちかねの夕食。白木のカウンターを設えた専用の部屋で、熟練職人が握る寿司をいただきます。大きな窓の向こうに広がる美しい中庭の風景を背景に、目の前で匠の職人技を眺める眼福のひと時。一貫ずつ絶妙に頃合いを見計らって供される寿司を味わいながら、口福を噛みしめるのでした。
大阪城を望む貴賓の館で体験する、茶の湯と美食
箕面の森の静寂に包まれて眠った翌朝、期待以上の景色を堪能。滝道と呼ばれる川沿いの小径を箕面大滝まで散策した後、再び大阪市内へ移動です。
旅の最終目的地は、太閤豊臣秀吉が築城した天下の名城、大阪城。豪華絢爛な外観で威風堂々とそびえ立つ天守の姿に圧倒されながら、城内の一角に広がる西の丸庭園を訪ね、お茶体験。
そして、太閤秀吉の正室、寧々の屋敷跡に立つ大阪迎賓館へ。1995年のAPECや2019年のG20大阪サミットの際に、世界各国の要人を迎えもてなした格式高い館でのランチタイムです。クラシカルなインテリアと広大な庭園の景色が印象的なダイニングでいただくのは、関西のフランス料理界を牽引する石井之悠氏が手がけた和洋折衷の特別コース。手をつけるのが惜しいほどの美しさと、素材の力が最大限に引き出された美味しさに、感嘆のため息と舌鼓が止まりません。旅の締めくくりに相応しい、最上の食事となりました。
活気あふれる商店街、神が鎮座する神域、能の世界、森の宿の癒し、高貴な館での食などを通じ、五感で体感した大阪の文化。それらは、ベタベタコテコテのフレーズに代表されるステレオタイプな大阪のイメージとは対極のものです。繊細で、洗練されていて、面白くて、温かい。旅の後に感じたのは、そんな大阪の多様性でした。