大阪天満宮本殿で上野朝義師による能「高砂」を特別鑑賞

大阪天満宮本殿で上野朝義師による能「高砂」を特別鑑賞

2022年01月31日

The KANSAI Guide

室町時代に観阿弥・世阿弥父子が大成して以来、600年以上にわたる長い歴史を重ねてきた、能と狂言。総じて能楽と称される日本でも最高位の伝統芸能は、ユネスコ無形文化遺産に登録されています。
今回の特別文化体験では、重要無形文化財総合認定保持者の観世流シテ方能楽師、上野朝義師による能を鑑賞。代表的な演目である「高砂」を通じて、能と日本文化への理解を深めます。
舞台は、大阪を代表する神社、大阪天満宮の本殿。通常は神職以外の立ち入りが許されない、神域です。神の存在を近くに感じながら、目の前で繰り広げられる能の世界に浸るひと時。特別な体験となることは間違いありません。

「天満の天神さん」の名で親しまれる、大阪の人びとの心の拠りどころ

大阪市街地の中心に鎮座し、地域の人びとや商人など多くの参拝客を集める

大阪市街地の中心に鎮座し、地域の人びとや商人など多くの参拝客を集める

大阪での特別文化体験の舞台は、1300年の歴史を有する大阪天満宮。日本三大祭のひとつに数えられる天神祭の中心地であり、受験シーズンに多くの参拝者を集める合格祈願の聖地です。
社伝によると、奈良時代に孝徳天皇が難波長柄豊崎宮造営の際、都の守護神として現在の境内地に大将軍社を祀り、大将軍の森と称しました。その後、平安時代の朝廷で右大臣を務める菅原道真公が、権力闘争に敗れて太宰府へ左遷される途中に大将軍社を参拝し旅の無事を祈願。太宰府で道真公が没した後、平安時代中期の天暦3年(949)、大将軍社の前に一夜にして7本の松が生え、毎夜その梢は金色の光を発していたとか。そんな話が当時の村上天皇の耳に入り、勅願によって社殿を建立して篤く祀り道真公の御霊を鎮めたことが、創建の由来となっています。
以来、地域一帯の氏神、道真公ゆかりの学問や芸能の神様として、地域の人びとや商人の心の拠りどころとなり、「天満の天神さん」と呼ばれ親しまれてきました。最寄りの地下鉄駅名にもなっている南森町という地名は、お宮のルーツである大将軍の森にちなんでいるといいます。

特別鑑賞の舞台は、神が鎮座する本殿神域

荘厳で神聖な気が漂う本社内部。竹の仕切りから奥が幣殿と本殿の神域

荘厳で神聖な気が漂う本社内部。竹の仕切りから奥が幣殿と本殿の神域

大阪の人びとから敬いと親しみの心で信仰され続ける、天満の天神さん。南側の表大門から境内へ入ると、正面に立派な社殿が立ち、参拝者が深々と頭を下げて柏手を打っています。主祭神である菅原道真公が祀られた神社の中枢、御本殿です。特別文化体験の能鑑賞は、この本殿を特別に貸し切って行われます。
現在の本殿は、江戸時代末期の天保14年(1843)に再建されました。それまで大阪天満宮は何度も火災に見舞われ、天保8年(1837)に起こった大塩平八郎の乱による大火では境内が全焼。しかし、氏子や崇敬者はじめ多くの人びとの献身的な奉仕により6年越しで本殿を再建。以来、大阪の町が焼け野原と化した戦禍の中でも「天神さん」を守ろうとしたという、地域の人びとの篤い信仰心に支えられ、180年近い歴史を重ねています。
本殿を含む本社は権現造と呼ばれる建築様式で、手前から拝殿、幣殿、本殿の順に並び、優美な屋根に覆われる形で一体化しています。大阪府下の木造建築では最大の規模を誇り、それ自体が貴重な建造物です。
一般の参拝では入れない内部へ進み、能を鑑賞する拝殿から奥の本殿を望むと、静けさの中に神々しい空気が流れているのを実感します。神の存在を間近に感じる、神聖な空間。その場に身を置くことだけでも、すでに特別な体験です。さらに、能が披露されるのは、神職の方以外は立ち入ることが許されない本殿の神域。能という芸能が、神聖なものであることを改めて理解できます。これこそ、特別な空間での特別な体験といえるでしょう。

世界に誇る日本伝統芸能の最高峰、能

面と装束を身につけた演者の姿は、美しさと神々しさにあふれている

面と装束を身につけた演者の姿は、美しさと神々しさにあふれている

今回、由緒ある神社本殿の神域で特別に披露される、能。室町時代に観阿弥・世阿弥父子が大成して以来、600年以上にわたる歴史の中で磨き上げ洗練されてきた、日本を代表する伝統芸能です。文楽や歌舞伎から現代劇やオペラまで、国内外のさまざまな芸能に影響を及ぼしてきました。
一般的に能楽と呼ばれることもありますが、正しくは、狂言と能を総合して能楽と括られます。狂言は、人そのものが演者となり会話によって進められる台詞劇。日常的な出来事を題材にし、風刺や笑いの要素を多く含んでいます。
一方の能は、器楽と声楽に合わせた謡と舞で、怒りや哀しみ、恋慕など、人間の情を描き、物語を展開させる歌舞劇。演技や演出は極限まで削ぎ落とされ、演者のわずかな動きや所作の一つひとつに意味が込められています。ほかの芸能にはない、能の特徴といえるでしょう。また、歴史上の人物をはじめ、亡霊や精霊、神や鬼などといったこの世のものではない存在が、シテと呼ばれる主役として登場することが多いのも特徴的です。
さらに能を特徴づけているのが、面(おもて)と呼ばれる仮面や、装束(しょうぞく)と呼ばれる衣装。これらは単なる舞台道具ではなく、削ぎ落とされた演技や演出の中で、演者の表情や感情、物語の抑揚などを視覚的に訴求する大切な役割を担っています。特に面は、神仏や先祖代々の魂が宿るともいわれ、能楽師の家系では何代にもわたり家宝として受け継がれる貴重な品です。

めでたく格式高い名演目「高砂」の鑑賞で、能と日本文化の理解を深める

重要無形文化財総合認定保持者、観世流シテ方、上野朝義師による能、「高砂」

重要無形文化財総合認定保持者、観世流シテ方、上野朝義師による能、「高砂」

観阿弥・世阿弥によって能が大成されて以来、数多くの演目が作られてきました。現在もなお上演されている演目は200以上。その多くは、室町時代に広く知られていた物語や寺社の縁起などに題材を求めています。
今回、重要無形文化財総合認定保持者で観世流シテ方の上野朝義師と息子の朝彦師に披露していただく演目は、「高砂」。兵庫県高砂市の高砂神社と大阪市の住吉大社にまつわる、能の代表的な演目です。
“高砂の浦を通りかかった神主が、松の木陰を掃き清める老夫婦と出会い、高砂の浦と住吉の浦にある相生の松の由来を聞いた。夫婦仲良く長生きすることのめでたさを説く老夫婦は、自分たちは松の木の精霊であることを明かし、神主を住吉へ誘って姿を消す。神主が住吉に辿り着くと、目の前に住吉明神が現れ、颯爽と舞いながら平和な世を祝福した”
縁起物の松を主題としたこの曲は、神が平和な世を祝福したり、社寺の縁起を語ったりする演目の中で最もめでたく格式高いものとされてきました。古くから、結婚披露宴や長寿の祝いなどおめでたい席の定番として親しまれている名曲です。
「能の謡は、一つひとつの言葉に含まれる意味をとても大切にしています。その理解を深めることで、能の楽しみ方の幅がより一層広がるはずです」。そう朝義師が仰るとおり、能の鑑賞では舞や所作を目で追うだけではなく謡の内容に注意深く聞き入ることも大切。能を楽しむことは、能そのものへの理解に留まらず、広く日本の伝統文化を知ることにも繋がるはずです。

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