福井県 770年続く禅の修行場と古き良き日本の和紙の町へ

福井県 770年続く禅の修行場と古き良き日本の和紙の町へ

2021年12月27日

The KANSAI Guide

日本だけでなく、世界でも認知されてきた坐禅。
その本拠地、曹洞宗永平寺があるのが福井県。またこの地は古くから天皇や将軍が公文書で使用し、今も多くの日本画家が愛する、越前和紙の故郷でもあります。
深い山と清らかな水、さらに厳しくも豊かな日本海が育む伝統と文化、そしてまっすぐな心根を持つ人びととの出会いを求めて、越前和紙の人間国宝や伝統工芸職人、厳しい修行に身を投じる禅僧の待つ、越前福井へと出かけましょう。

小浜市を出発!日本の食の原点と日本三大大鳥居を目指して

「お箸は食べ物です」をモットーに全て天然素材で作られる兵左衛門の箸

「お箸は食べ物です」をモットーに全て天然素材で作られる兵左衛門の箸

小浜駅を出発して最初に向かうのは、お箸の兵左衛門。
人気商品の「かっとばし!!」は、年間10万本も消費されるプロ野球の木製バットを加工した製品で、売上の一部は、木製バットに最も適していると言われるアオダモの木の育成プロジェクトに寄付されます。
近隣の作業所には、折られたバットが宝物のように保管されており、物を大切にし、形を変えて使い継ぐ職人の心意気に思わず胸を打たれます。また、この作業場では加工前の箸の角を削って自分好みに仕上げる箸削りを体験。「かっとばし!!」と、自作の削り箸。この旅のはじめに、素敵なお箸に出会えました。
兵左衛門を後に、向かうは北陸道の総鎮守である氣比神宮。奈良の春日大社、広島の厳島神社と並ぶ、日本三大木造大鳥居は高さ約11m。朱塗りの大鳥居は思わず見上げてしまうほどの迫力です。

ときの蔵で地産地消のランチをいただく

季節ごとに旬の魚や野菜も登場するときの蔵のランチ

季節ごとに旬の魚や野菜も登場するときの蔵のランチ

小浜市を出て、次に向かうのは福井市。
その前に福井県が誇る山々と日本海の恵みで腹ごしらえを。
「ときの蔵」では越前海岸などから届く新鮮な魚介類に加え、地元の野菜や池田町の山菜などをふんだんに使った贅沢なランチが楽しめます。店名は、福井の名酒「梵・ときしらず」に由来していて、ランチでも地酒を提供してくれるので、思わず時を忘れて食事を楽しんでしまいます。

福井藩主の愛した庭園で特別なお茶席体験

御月見ノ間から眺める庭園風景

御月見ノ間から眺める庭園風景

養浩館庭園は福井藩主松平家の別邸であった庭で、明媚な回遊式林泉庭園が魅力。特に御月見ノ間の中から覗く庭園の景観は、窓が縁取る一幅の絵のような美しさです。
このお部屋で塩谷 宗佳先生のお点前による、特別なお茶会に参加。清閑なお部屋の中でのお茶会に背筋が伸びるような心持ちがしますが、それがなんとも和やかで心地いいのは、亭主となっている先生の心のこもったおもてなしのおかげです。

770年続く永平寺での朝のおつとめ修行に参加 

木魚の元になった梆。永平寺では食事の時間を伝えるために使われた

木魚の元になった梆。永平寺では食事の時間を伝えるために使われた

お茶席で心もほっこりと和んだら、いよいよ旅のメインとなる目的地のひとつ、吉田郡の曹洞宗大本山永平寺へと向かいます。まずは、門前の宿「柏樹關」にチェックイン。館内に入ると目に飛び込んでくるのは、梆(ほう)と呼ばれる巨大な魚の木像で、300年ほど前に造られ、十数年前までは永平寺で、食事の時間を告げるために実際に利用されていたそう。門前の宿らしい品の良い客室は、文豪谷崎潤一郎が唱えた日本の美のひとつ「陰翳礼讃(いんえいらいさん)」を意識したもの。あえて照明を落とし、太陽の光が部屋の中に落とす影を楽しめるよう配慮され、そこにいるだけで心豊かになり、落ち着ける空間です。
ただし、伝統だけを追求するのではなく「アレクサ」を使ったフロントとのコンタクトシステムなど、伝統の中にホスピタリティを加える最新技術をさりげなく融和させているのも、心憎い演出です。
滞在中、宿に常駐する禅コンシェルジュの案内で、坐禅や写経に挑戦することもできますよ。

日々、僧侶による厳しい禅の修行が行われている永平寺

日々、僧侶による厳しい禅の修行が行われている永平寺

ホテルに一泊した翌日の午前4時に永平寺へ。
夜の明けきらない時間帯の永平寺は、静かで厳粛な雰囲気。ここは、観光地ではなく、全国から多くの修行僧が集う修行の場。すれ違う僧侶・修行僧の真剣な面持ちに我知らず気持ちが引き締まります。
堂内では僧侶による禅や修行についての法話を拝聴し、その後、長い回廊を登って法堂(はっとう)へ向い、朝の勤行に参加。100名を超える僧侶・修行僧が声を揃え、一切の乱れなく読経をするその声の力強い響きに圧倒されます。
永平寺から柏樹關に戻ったら、優しいお味の精進料理の朝食をいただきチェックアウト。再び永平寺に戻り今度は坐禅体験。静寂に満ちた境内で只管打坐。思索にふける禅の世界へと足を踏み入れます。

日仏の見事な融和。素材の特性を活かし切るフレンチ

「食材に旅をさせない」というソワン、地元の生産者から直に届く野菜や魚の鮮度は折り紙付き

「食材に旅をさせない」というソワン、地元の生産者から直に届く野菜や魚の鮮度は折り紙付き

清貧清廉の禅の世界を体験したら山を下り、今度は打って変わって、色彩豊かで贅沢な口福を味わいに出かけます。実力派フレンチソワンは、テイストはフレンチながら素材の活かし方には日本の技術が用いられています。それを感じさせてくれるのが魚料理。ポワレやソテーをしつつも、中心は絶妙なレア加減で仕上げてくれる魚料理は感動を覚える味わいです。また、ややぬるい温度が愛される本場のフレンチとは違い、出来立ての美味しい温度で提供されるそのライブ感も、この店ならではのもの。日本の福井という土地だからできる、フレンチと日本的情緒の融和したランチは一食の価値ありです。

日本の製紙業発祥の地へ

大滝地区にあるのは下宮。岡太・大瀧神社の本宮はさらに山を登った先

大滝地区にあるのは下宮。岡太・大瀧神社の本宮はさらに山を登った先

岩野平三郎製紙所では、女神が広めた紙漉きの技を受け継ぐのは女性の仕事とされる

岩野平三郎製紙所では、女神が広めた紙漉きの技を受け継ぐのは女性の仕事とされる

福井県は古くから越前和紙と呼ばれる工芸品で日本中に名を馳せた土地。
日本の製紙業発祥の地は、越前市郊外にある「五箇地区」と言われており、この地にある紙祖神岡太神社には1500年前に紙漉きの技法を伝えたとされる女神、川上御前が祀られています。この女神の伝えた紙漉きの技術を今も受け継ぐのが、岩野平三郎製紙所。
紙漉きの工程を守るのは、女性の工芸士。この紙漉きは深い山を流れる、手が切れるように冷たい水で行い、冬場は60度の熱湯に手をつけながら作業するという、厳しい仕事です。
作業場では、60年にわたり紙漉きに従事する玉村秋子さんが、案内をしてくれます。工程の説明だけでなく、紙漉き職人の間で伝わる「紙漉きの歌」の披露もまた見事。和やかな案内とは違い、歌が始まると玉村さんの雰囲気は一変!
力強く朗々と歌い上げられる紙漉きの歌。仕事の辛さ、楽しさ、哀切が詰まった歌詞には、血が通った胸を打つ凄みがあります。

人間国宝 岩野市兵衛氏のご自宅兼工房見学

ルーブル美術館をはじめ海外からの評価も高い人間国宝の紙漉きが見学できる

ルーブル美術館をはじめ海外からの評価も高い人間国宝の紙漉きが見学できる

1500年の歴史をもつ越前和紙。その技術は人間国宝の手によっても脈々と伝えられています。
その御業を拝見するため、九代目岩野市兵衛氏の工房へ。
88歳というお年ながら矍鑠として日々の仕事を楽しむその姿や、何気なく語られる言葉の端々に見える深く真摯な仕事観。「私は名人ではないよ」「目の前の仕事に打ち込むだけ、楽はできないよ」。
70年紙漉きに携わりながら、毎日を初仕事のように始めるその姿勢に、感銘を覚えます。

越前和紙そのものだけでなく和紙を使った文具やおもちゃなども揃う「和紙の店うめ田」

越前和紙そのものだけでなく和紙を使った文具やおもちゃなども揃う「和紙の店うめ田」

伝統の担い手の情熱に感動し、その紙を手にとってみたくなったら、「五箇地区」の新在家にある、「和紙の店うめ田」へ。ここでは岩野平三郎製紙所、岩野市兵衛氏の作品を購入することができます。
実はこの「和紙の店うめ田」もかつては紙漉きに従事していた工房であり、その目利きは本物です。書画に最適な奉書紙・麻紙だけでなく、気軽に買える商品も多彩。旅の途中、お茶席や食事にも登場していた懐紙も豊富に揃っているので、購入して日常に取り入れてみるのもおすすめです。
21世紀に今なお息づく文化と修行、それを受け継ぎ、守り伝えてゆく心根のまっすぐな人びととの出会いに満ちた福井での2日間。日常生活の中に根付いた本物の日本文化に出会う旅となりました。

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