1200年の古都・京都で、本物の体験に出会う旅
2021年12月27日
古くから都として栄え、1200年の歴史の中でさまざまな文化が発展してきた京都。
そこでは、古きを守り継承する伝統と、進取の気性で時代に対応する革新が繰り返され、不易流行の考え方が根付いてきました。
日本を代表する観光地でありながら、今なお古い町並みや神社仏閣が随所に残り、新しいモノや文化がそれらと違和感なく共存している町は、日本広しといえどほかに例を見ない気がします。
そんな京都には、モノも人も食も文化も、本物が満載。ガイドブックでは知り得ない、本物の体験に出会う旅へ出かけます。
創業300余年、京都でも屈指の名茶舗で日本茶の魅力を体感
京都駅を出発し、まず向かうのは、享保2年(1717)の創業から300余年の歴史を重ねる日本茶の老舗、一保堂茶舗京都本店。弘化3年(1846)に山階宮から「茶、一つを保つように」と賜ったという屋号の下、販売だけでなくさまざまな取り組みで、“お茶のある暮らし”を発信しています。
そんなお茶の名店で体験するのは、日本茶の特別ワークショップです。テイスティングでは、銘柄による味と香りの違いを体感。実際に自分で淹れてみると、まったく異なる味と香りに驚かされます。そして、銘柄だけでなく淹れ方も大切なことを改めて知るのです。
お茶の選び方や淹れ方についても詳しくレクチャーしてもらい、お茶のある暮らしの豊かさを実感できました。
眼福と口福に満たされる、ミシュラン二つ星の名店
老舗茶舗でのワークショップを通じて、京都に息づく日本茶の文化を体感。続いては、名シェフが腕をふるうレストランを訪ねて、京都の食文化の妙を楽しみます。
京都東山、知恩院の門前町に店を構える「新門前 米村」は、2021年のミシュランガイドで二つ星に輝いた名店。「変幻自在な料理人」と自称するオーナーシェフの米村昌泰さんが、ジャンルにとらわれないイノベーティブな料理でもてなしてくれます。
京町家の風情あふれる店構えと、スタイリッシュな店内空間とのギャップに心躍らせながら、センスよく配された調度品にも眼福。主役の料理が登場する前から、特別な気分が高まるのです。
そして、料理がサーブされてその気分は最高潮に。フレンチとも和食とも括り切れない米村シェフならではのひと皿に、口福の唸りを上げてしまうのでした。
京都屈指の名刹を身近に感じる、僧侶の案内による特別参拝
名シェフのおもてなしで眼福と口福を堪能し、レストランを後に同じ東山エリアの清水寺へ。
国内外からの観光客で賑わう京都屈指の名刹で、一般非公開の場所を僧侶のガイドで巡る特別参拝です。
迎賓室で抹茶とお菓子の接待を受けた後、法衣に身を包んだ大西晶允師にご挨拶。まずは、壁一面に無数の仏像が配され、床に仏足石が刻まれた多宝閣へ。階上から、仏足石に向かって蓮の花びらを模した紙を撒く散華の仏式を施し、場を清め仏を讃えて供養します。
清らかな心身で西門へ移動し、京都市街を一望しながら京都と清水寺の歴史に関するお話を拝聴。清水の舞台を経て本堂内陣に入り、千手観音菩薩の間近で心静かに合掌します。
最後は、清水寺の本坊であった成就院で、小堀遠州作事による日本屈指の名庭を愛でるひと時。
「宗教や信仰に関係なく、お寺に親しんでいただきたい」という晶允師のお気持ちが、とても温かく感じられる特別参拝となりました。
格式高い門跡寺院を一晩借り切りで過ごす、特別なステイ
古都で長い歴史を重ねてきた名刹の特別参拝を終え、次の目的地に向かいましょう。
東山から京都の市街地を抜け、一路御室へ。御室御所とも呼ばれる格式高い門跡寺院、仁和寺に到着です。仁和寺も京都を代表する名刹ですが、今回はこちらで一夜を過ごします。
1日1組限定の宿坊、松林庵にチェックイン後、御殿や堂塔など境内各所を僧侶の案内で特別見学。御殿の回廊から眺める庭園の美しい風景には、思わず見惚れてしまうのです。
そして、夕方の閉門から翌朝の開門までの間は、境内を借り切り状態で独占できる特別な時間。夕食は、茶懐石の名店「懐石辻留」がゲストだけのために厳選した食材を使い特別メニューで提供、御殿でいただきます。さらに食後は、誰もいない静寂の中、ライトアップされた境内のプライベート散策へ。
神秘的な空気と御仏のご加護に包まれながら、古都の夜がふけていくのを実感。時間が止まってほしいと願わずにはいられない、特別な一夜を過ごしたのでした。
ワークショップと鑑賞を通じ、能の世界に浸る
名刹の境内を独占して一夜を過ごし、国宝の金堂で早朝の勤行に参加して清々しく二日目をスタート。精進料理の朝食をいただいた後、開門と同時に訪れる一般参拝者と入れ替わりにチェックアウトします。
この日最初の目的地は、かつて天皇の住まいだった京都御所にほど近い金剛能楽堂。能シテ方五流派のうち、関西に宗家が在住する唯一の流派、金剛流の能楽舞台です。
迎えてくださったのは、重要無形文化財保持者の能楽師、種田道一師。文化庁の交流士として欧米など海外での公演やワークショップを行ってきた実績をもつ、能楽界の重鎮です。
まずは、種田師の指導で、すり足や所作、舞などのワークショップに参加。能楽界の重鎮に直接指導していただける機会は、またとない貴重な体験。実体験を通じて、能に関するイロハを学びます。続いて、種田師自らシテ方を務める、能の舞台を鑑賞。所作や舞の美しさはもちろん、空間と体に響きわたる謡にも圧倒されながら、先ほど種田師から教わった「幽玄の美」の意味を噛みしめるのでした。
京都でも屈指の名店で、職人の技が光る天ぷらに感嘆
能楽界の重鎮によるワークショップと鑑賞で能を堪能したところで、午前中のプログラムが終了。平安神宮が鎮座する岡崎へ移動し、ランチタイムです。
訪ねたのは、平安神宮西側の静かな通りに佇む、天ぷら 圓堂 岡ざき邸。和食の聖地・京都にあって、天ぷらの名店として知られるお店で、自慢の天ぷらをいただきます。
伝統的な和の設えで統一された店内は、華美な装飾を排したシンプルなデザインと清潔感が印象的。さまざまなタイプが用意された客席の中でも特等席は、目の前で職人の妙技が繰り広げられるカウンター席でしょう。
産地直送の新鮮魚介や地元の京野菜など旬の厳選素材が、職人の手によって調理されていく様子を眺めている時間も至福。絶妙の加減で揚げられた天ぷらを一品ずつ口に運ぶたび、思わず感嘆の声を上げてしまいそうになるのです。
平安神宮の貴賓館で、織部流扶桑派家元の特別なお点前を体験
名店の天ぷらに大満足した後は、待ちに待った特別文化体験の時間です。舞台となる平安神宮は、お店のすぐ近く。岡崎エリアのランドマークとなっている朱塗りの大鳥居を抜け、應天門から境内へと進みます。
御本殿に向かって参拝し神様にご挨拶を済ませたら、東神苑にある尚美館へ。一般非公開の貴賓館で、織部流扶桑派家元による茶道のお点前を体験するのです。
まずは、「二ツ頭」呈茶で、家元のお弟子さんから歓迎を受けます。仏教儀礼で行われていたという立ったままでのお点前は、初めて体験。改めて、茶道の奥深さを知りました。
そして、高貴な客人だけに行われる「貴人点前」の作法を、家元である尾﨑米栢師にご披露いただく貴重な時間。家元直々にお点前が施された一服は、一生の思い出に残る特別な一服といっても過言ではありません。
作庭家、重森千靑氏のガイドで巡る、京都の名庭
特別な体験尽くしだった京都の旅も、残すところ僅か。旅の最後は、これも京都らしい日本庭園を訪ねて締めくくります。
案内役を務めてくださるのは、名作庭家、重森三玲氏の孫にあたる重森千靑氏。近代を代表する作庭の巨匠が手がけた庭園を、千靑氏自らの案内で鑑賞できる貴重な機会です。
まずは、紅葉や庭園で有名な禅の名刹、東福寺へ。本坊庭園を訪ね、広い方丈に設えられた4つの庭「八相の庭」の見学です。現代日本庭園の最高傑作とも称されるだけあり、素人目にもその素晴らしさを実感できます。
続く光明院では、「八相の庭」と並ぶ重森三玲氏初期の傑作「波心庭」を鑑賞。池泉式枯山水の背後に、雲型をモチーフに刈り込んだサツキやツツジが配された構成は、まさに作庭の妙といったところです。
また、通常非公開の一華院では「彷彿石(ほうふつせき)の庭」と「⻁靠山(ここうざん)の庭」を鑑賞した後、千靑氏による砂紋引きの実演も見学。砂紋や石組の意味、足跡がない理由など、庭に対する素朴な疑問が解消されました。
鑑賞のポイントや作庭の技術に関することまで、千靑氏の詳しい解説を聞けば、これまで何となく感じていた日本庭園の魅力が、より明確になっていきます。
1200年の古都、京都で体験した本物の数々。一般的な観光ツアーにはない、京都の素顔に出会える旅となりました。