麒麟獅子舞
2021年12月26日
(きりんじしまい)
鳥取県 関西
国指定重要無形民俗文化財
日本遺産「日本海の風が生んだ絶景と秘境-幸せを呼ぶ霊獣・麒麟が舞う大地「因幡・但馬」」
無病息災を祈り、鳥取県東部で江戸時代から伝わる芸能。 真っ赤な麒麟獅子が、出会う人びとに幸せをもたらす。
鳥取県東部に伝わる麒麟獅子舞は、江戸時代に鳥取東照宮で奉納されて以来、約140の地域で受け継がれています。神社の春秋の祭礼での奉納はもちろん、JR鳥取駅前周辺には麒麟獅子がモチーフの彫刻が点在するなど、地元に根付いた文化のひとつです。歴史ある伝統芸能にふれた後は、鳥取城跡や若桜地区、鳥取県の民藝運動の聖地・鳥取民藝美術館にも足を延ばしてみてはいかがでしょうか。
中国で泰平の世のシンボルとして崇められてきた麒麟を思わせる獅子舞を奉納。 鳥取県の初代藩主・池田光仲が建立した鳥取東照宮の祭礼で登場した。
古くから中国で泰平の世のシンボルとして崇められてきた麒麟。この想像上の動物を思わせる麒麟獅子舞が、鳥取県東部で伝統芸能として伝わっています。
慶安3年(1650年)、鳥取県の初代藩主だった池田光仲(いけだみつなか)が鳥取東照宮を建立、承応元年(1652年)に始めた祭礼において、登場したのが起源と考えられています。それ以来、無病息災を祈願し、幸せをもたらす芸能として約140の地域で伝統は受け継がれており、因幡地域の神社の春秋の祭礼を中心に神社に奉納されるほか、氏子の家を回り、門付けが行われています。奉納の際に麒麟獅子を先導するのは、麒麟と同じく、中国の古典に記されている想像上の動物である猩猩(しょうじょう)です。能の舞台ではおなじみの猩猩を取り入れたのは、能を好んだ光仲公らしいアイデアといえるでしょう。
頭をゆったり回しながら一心不乱に踊り続ける麒麟獅子。 宇倍神社、聖神社ほか各所でこの伝統芸能が受け継がれている。
獅子頭を被って真っ赤な衣装を着た麒麟獅子は、頭をゆったり回しながら、地を這うような姿勢をしたり、伸び上がったりする動作を繰り返します。猩猩は赤い棒を持って麒麟獅子を先導しながら緩やかな舞いを繰り返し、その共演シーンはどこかユーモラスで参拝者からも笑みがこぼれます。
初めて奉納された鳥取東照宮では明治以降に廃絶しましたが、その伝統をもっともよく受け継いで各地に伝えたのが宇倍神社です。毎年4月の祭礼で麒麟獅子舞が奉納されるほか、境内参集殿では獅子頭や猩々面など貴重な資料を常設展示しています。また、隔年5月にたくさんの山車が繰り出される聖神社でも麒麟獅子舞が奉納されます。
ほかにも因幡万葉歴史館では獅子頭が展示されていて、鳥取市内ではループ麒麟獅子バスも走っています。また、鳥取駅周辺には麒麟獅子の彫刻が点在、なかでも鳥取大丸の巨大な麒麟獅子はフォトスポットとしても話題になっています。2019年に「日本海の風が生んだ絶景と秘境-幸せを呼ぶ霊獣・麒麟が舞う大地「因幡・但馬」」が日本遺産に認定され、麒麟獅子舞は地元民の生活の中にさらに深く溶け込んでいます。
山城、美しい町並みなど鳥取県東部ならではのみどころがたくさん。 民藝運動が始まっておよそ100年を迎え、注目を集める鳥取民藝美術館にも立ち寄ろう。
麒麟獅子舞の伝統が息づく鳥取県東部エリアの観光スポットとして真っ先に挙げられるのが鳥取城跡です。「訪れるべき山城ランキング(2021年度、雑誌『歴史道』)」で1位に輝いた山城は、城郭の博物館とも称されるほど、各時代のさまざまな遺構と出合えます。コロンとした球型に積み上げられた珍しい石垣が現存するのをはじめ、周辺の城下町を見下ろせる二の丸からの眺望も見事です。
2021年8月、国の重要伝統的建造物群保存地区に選定された若桜地区もぜひ訪れてみましょう。町家や土蔵が並び、山間部の商家町のたたずまいを残す美しい町並みは先人たちが守ってきた貴重な文化財です。ノスタルジックな雰囲気を感じながら散策すれば心癒やされる時間が過ごせることでしょう。
また、民藝運動が始まってから100年の節目を迎え、話題になっているのが鳥取民藝美術館です。ここは「民藝のプロデューサー」と称された鳥取市出身の医師、吉田璋也が開設した美術館で、土蔵造り風の建物内に貴重なコレクション約5,000点のうち一部が展示され、日本のみならず、朝鮮や中国、西欧から集められた古い民藝品の数々は見応え十分です。美術館の周辺には、民藝品を扱う土産物店や地元名物が味わえる飲食店が並んでいます。
画像提供:因幡麒麟獅子舞の会/©鳥取県