奈良の日本酒物語 橿原・萬葉集
2020年12月10日
奈良の日本酒物語_橿原・萬葉集
日本には「短詩型文学」が伝統的に根付いている。その端緒とも言うべき和歌の書物が『萬葉集』で、780年頃に完成した。全二十巻の四千五百以上の歌が載っている。
その編纂者の一人が大伴家持であるが、その父の大伴旅人は現代の人々に意外な形で覚えられている。それは酒の歌を多く詠んだ人ということである。いずれの時代にも酒で失敗する人は多いのであるが、旅人はそうではない。萬葉集第三巻に載っている十三首は、酒の讃歌を作り、しるしなき物を思わずば一杯の濁れる酒を飲むべくあるらし(甲斐のない物思いをするくらいなら一杯の濁り酒を飲んだほうがましだ)と詠んだ。実はこのとき旅人は奈良から遠く離れて九州に赴任していた。いわば左遷されたのであったという説もある。とはいえ、当時の有名歌人である山上憶良がその時の飲み相手であった。酒を詠うことはすでに中国で陶淵明がおおらかに歌っていることが知られていたが、万葉の時代では旅人が新風を吹き込んだというわけだ。現世肯定の生き方の讃美であり、陶淵明にも通じるおおらかさといえるかもしれない。これは728年のことで彼は六十三歳頃、その三年後には奈良に帰って亡くなっている。
旅人が最初に官職に就いた頃は飛鳥時代といわれ、その中心地は明日香だった。710年に平城京に遷るまで、明日香は日本の首都というべき土地であった。旅人を育んだ土地に「酒」がないわけがない。
写真提供:⼀般財団法⼈ 奈良県ビジターズビューロー
【アトラクティブ酒蔵】喜多酒造
現代では奈良の初詣二大神社として、春日大社とともに知られている橿原神宮は、近代創建ながらその土壌で培われた文化はそれこそ1300年の歴史があるといってもいい。その橿原神宮へ神酒を50年以上奉納している酒蔵が喜多酒造であるが、創業300年を誇る。
すでに欧州で飲まれている日本酒を産しており、面白いことにその酒がハンバーガーに合うとドイツ人が評したというのだ。不思議な感覚であるともいえるが、それほど日本酒のもっているポテンシャルを見出すのは飲み慣れた日本人よりも海外の方々であるのかもしれない。
喜多酒造株式会社
〒634-0062 奈良県橿原市御坊町8番地
見学時間:9:00-17:00
定休日:
外国語HP:
交通アクセス
①近鉄大阪難波駅から近鉄橿原神宮前駅下車、徒歩約10分(所要時間目安:約60分)
②近鉄大阪難波駅から近鉄畝傍御陵前駅下車、徒歩約5分 (所要時間目安:約50分)