Spiritual KANSAI シリーズブログ7 : 侘び寂びの世界観1
2021年01月26日
関西地域は日本の精神文化の聖地であり、正真正銘のおもてなしに溢れる関西。そんな関西を「Spiritual KANSAI」と題して、様々なテーマを抽出しコラムにまとめてみました。本ブログシリーズでは、それらコラムを順に紹介していこうと思います。シリーズ第7弾は、「侘び寂びの世界観」をお届けします。(以下文章は本サイトのSpiritual KANSAI コラムページ(https://kansaiguide.jp/rt/column/)より引用しています)
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侘び寂びの世界観1
日本の美学を端的に表現するとしたら、おそらく「侘び寂び」です。覚えやすく、口ずさみ易いこの言葉は、日本や日本美術に興味のある人なら誰でも知っています。石庭、苔、ざらざらとした茶器のイメージがそこから想起されます。「詫び」という二語は元々は孤独を意味します。そして「寂び」は、簡素で落ち着きのある美しさ、そして経年することによる美しさ、緑青を意味します。殆どの日本人に「侘び寂び」が実際に何を意味するのかを尋ねると、大抵は肩をすくめます。しかしそれは誰も知らないからではなく、言葉で表現するのが難しいからだと、京都の宇治にある朝日焼陶器を率いる16代目の松林保斎は表現しています。つまり、ある意味での「原始的な美意識」としての「侘び寂び」は英語の単語では「primitive」に近いと感じています。朝日焼は1600年頃の江戸時代初頭に茶道文化を牽引するために公家の小堀政一(小堀遠州)によって創立されました。「詫び」や「寂び」の概念は既に古来より定着していましたが、その後、遠州は「侘び寂び」という表現に語彙を与え、朝日焼には「侘び寂び」の世界観を表現する核心的な美意識の象徴として「綺麗さび」が器に施されました。そして全ての陶器がその美学を今日まで継承しています。松林保斎が英語で語った「侘び寂び」についての考察が広く海外で知れ渡りました。
「侘び寂び」を言葉で表現することが殆ど不可能な理由は、その感性自体が侘び寂びの本質であり、日本の思想源流に繋がっているためです。数年前、私は徳島の山で山伏の知人と日本の友人達と共に韓国風焼肉を楽しんでいました。私たち全員が牛焼肉を食べていたという事実は、それ自体がある意味で日本の物事が如何に一貫性がなく流動的であるかを示す良い例です。山伏は本来は伝統的に肉を食べませんが、この時は韓国風焼肉とビールを一緒に楽しんでいました。食事をしている際、山伏の友達に「修験道と山伏の道の本質」を聞いていたところ、彼は大きな笑みを浮かべて私に向き直り「絶対に到達できないかもしれない。気にしすぎですよ。」と言いました。テーブルの周りで爆笑が起こりました。その事は確かに私に多くの示唆を与えました。つまり、この事は日本人の物事に対する考え方について多くを語っています。西洋の私たちが幼い頃から論理で物事を区分して理解しようと条件付けられています。しかし日本的な思考では、より自然で流動的に人間の心の赴くままに物事を理解する傾向があります。
「侘び寂び」の美学がどのようにして生まれたのかを説明する場合、多くの専門家たちは紀元前14000年から300年までの長い先史時代である縄文時代にまで遡ります。当時、日本は狩猟採集社会であり、農業という概念はありませんでした。しかし、狩猟採集社会としては珍しく、縄文人たちは洗練された精巧な縄文式土器を作りました。土器は重く、作るのに時間がかかるため、通常は1か所にとどまる農業型社会に関連づけられますが、縄文社会の狩猟採集社会のライフスタイルを維持しながら縄文式土器と共存し続けることができたのは、日本が食料資源に恵まれており縄文時代は自然が提供するものを頂くことで、定住できたためであると考えられます。世界中の多くの社会でそうであったように、自分たちで食べ物を育て社会を築くという事は精神性や宗教観と繋がりますが、日本における豊かな自然を背景とした生活様式は、日本人の精神性と宗教観を他地域とは違うかたちで育みました。それは日本人の思想や哲学にも発展し、現在も日本文化の根源に横たわっています。日本の神道は、確かに政治的および社会的目的のためにさまざまな場所で使用されてきましたが、本来は自然に基づく信念体系であり、古代ケルト文化やネイティブアメリカンの信念にも似たアニミズムの混合のようなものであり、「神」とは自然が持つ神秘性や霊力など全ての価値のことを表現し、ヒンドゥー教にもよく似た多神教型の精神です。自然を崇拝することにより季節の変化に敏感になり、生命の無常感にもつながりました。日本人の価値観を理解する上で自然観は非常に重要であり、例えばこれらは数多くの芸術家や作家が精神性や想いを作品に反映し世界に発信しています。