山陰海岸ジオパークの絶景
2021年02月09日
地球の鼓動がもたらした奇跡。
山陰海岸ジオパークの絶景を体感する。
太平洋の北西に本州を中心に、島々が弧状に並ぶ日本列島。
はたして日本列島は、どのようにして形作られたのだろうか。約2500万年前からまずユーラシア大陸の一部が火山活動やプレートの動きによって列島の原型が引き裂かれ始める。この時、間にくぼみが出来、海水が徐々に流れ込み後の日本海となる。約1900万年前~1100万年前にかけて海が次第に広がり、日本列島は大陸から徐々に離れ現在の形を形成することになる。壮大な地球のドラマだ。
日本海をはさんで大陸と面するかつての大陸から切り裂かれた鳥取から兵庫にかけての海岸沿いは、現在、山陰海岸ジオパークの認定を受け、日本列島が誕生した痕跡があちらこちらに残る、素晴らしい絶景とダイナミックな地球の鼓動を感じることが出来るエリアなのだ。
山陰海岸ジオパークの西の入口を飾るのが鳥取市の海沿い南北2.4km、東西16kmにわたって広がる日本最大規模の砂丘が鳥取砂丘だ。砂丘の砂の粒子は8分の1ミリと極めて細かく、これが独特の風紋や砂簾を形作り、刻々と姿を変えて美しくも豊かな表情を見せてくれる。砂が細かいのは、中国山地の火山岩が砕かれた砂が千代川(せんだいがわ)によって海岸線に運ばれ、細かく砕かれ、波や風によって吹き上げられ集められたからだ。海と陸が出合い、風と砂が織りなす自然のアートは地球の呼吸を感じる。
圧巻なのが冬の鳥取砂丘。うっすら積もった雪が光をキラキラ反射しながら、広大なスケールで延々と広がる様は感動的だ。
砂の美術館では世界のアーティストが砂丘の砂を使って風景や建物を表現するアート作品が堪能できる。国、地域をテーマにしたシリーズ展示を続けており、その巨大で繊細な造形には圧倒される。
鳥取砂丘から海岸線を東に向かうと日本列島形成後の火山活動で噴出した火山岩とその後の浸食でできた絶壁、海食洞、奇岩、砂浜の絶景が途切れることがなく続く。鳥取県浦富海岸に広がる「白砂青松」、兵庫県但馬御火浦にある「下荒洞門」、香住海岸の「千畳敷」、竹野海岸の「はさかり岩」、京都府琴引浜の「鳴き砂」などは外せないポイントだ。とくに最近人気を集めているのは兵庫県新温泉町穴見海岸の、親指を立てた形に見える通称「いいね岩(Like rock)」だ。また、海岸沿いに迫った丘陵には渓谷や滝、棚田など貴重で美しい風景を楽しむことができる。2020年2月には「山陰海岸ジオパークトレイル」が開通し(総延長230㌔、標高差330㍍)、初心者から上級者までの様々なハイキングコースとなっている。不思議な岩や驚きの奇岩、お気に入りのエリアを自分の足で探してみるのも楽しい。
但馬海岸にある山陰海岸ジオパーク海と大地の自然館では、海岸の成り立ちや生息する様々な生き物の紹介、さらには多様な地形、地質、風土がもたらす多彩な自然を背景にした人々の文化や歴史を展示している。
太平洋プレートは日本列島を大陸から引き離しただけではない。ジオパークは、人々を癒すエリアでもある。ジオパーク周辺には温泉が多く、兵庫県新温泉町の湯村温泉では、厚さ100mの地下深い太平洋プレートで熱せられた湯が、湯村断層を通じて100℃近い高温の湯が町のそこここに湧き出ている。集落のすべての家にお湯がひかれ、蛇口をひねれば温泉がでる。約400戸の住民が利用する中心部の泉源・荒湯(あらゆ)で野菜を茹でる。お湯に重曹が含まれていて、野菜のあくが抜け、色鮮やかである。まさに暮らしに息づき・癒しの温泉である。
山陰海岸をさらに東へ進んでも絶景はまだまだ続く。太陽が橙色に染まって沈む雄大な光景が見られるのが京丹後・網野町の夕日ヶ浦。近年人気の「伊根の舟屋」は、港に並ぶ民家の1階が船の格納庫になっていて、その上に住居を備えた230軒ほどの伝統的建造物群である。
また、幅約20~170m、全長約3.6kmの細長い砂浜に約5千本もの松が茂っている珍しい地形の天橋立。日本海を流れる対馬海流が運んだ砂と阿蘇海に流れ出る野田川の土砂が数千年もの歳月をかけて堆積してできた自然造形の奇跡だ。その形が天に架かる橋のように見えることから天橋立と名づけられた。「松島」「宮島」に並ぶ日本三景の一つに選ばれている。
火山活動と海による浸食でできたリアス式海岸が続くこのエリア。貴重で美しい地形や地質を生み出すだけではなく、森林がもたらす養分が海に流れ出すことと独特の地形とが相まって、また冷たい水に住む魚介類と、温かい海に住む魚介類が混在しているためにまさに海の幸の宝庫となっている。全国一の漁獲量を誇るズワイガニ、ホタルイカをはじめ、シロイカ、ハタハタ、ブリ、トリガイ、岩ガキなど、四季を通じて海の幸を楽しめるエリアでもある。